「うわ……」
取り出した短冊は、圧倒的に白かった。
そもそも和歌だなんてものは、性に合わない。
「しまった……。もっとラクなものを言っておけばよかった……」
竹馬? 独楽回し?
いやいや、今はそんなことを考えている場合ではない。
白すぎる短冊と向かい合う。
どれだけ頭をひねっても、ロクなものが出てこない。
私はそれを文台に放り投げた。
いいや、そのままの自分で行こう。
何もなくたっていいじゃない。
あの人にどう思われようと、あの人がどう思おうと、今の私の立場は変わらない。
何を頑張ったところで、どうにもならないのだ。
「失礼します」
そっと板戸を開く。
細くたおやかな身を真っ直ぐに伸ばし、芽吹いた草はすっかり大きくなっていた。
若くみずみずしい清らかな葉を広げ、緑一面になった庭を前に、その人は座っていた。
あぁ、晋太郎さんは、この庭を本当に大切にしていたのだ。
そっと柔らかな風が吹く。
「鮮やかな、緑のお庭だったのですね」
「……。だから、手出しは無用と言ったのです」
何もない地面の下に、こんなものが隠されていただなんて、思いもしなかった。
「すみませんでした」
「もうそのことはよいのです」
静かな横顔は、わずかにうつむいた。
「句をみましょう。お出しなさい」
「は、恥ずかしいので、まずは基礎から教えていただけませんか」
「詠んだ句をみてほしいのではなかったのですか?」
首を横に振る。
恥ずかしいのもみっともないのも、全部承知の上だ。
「ここへ来る前に、全部捨てて参りました」
「……。分かりました。では最初から作りましょう」
その人は筆を手に取った。
しなやかな筆の先が青黒の墨に触れ、静かにそこを離れる。
紙面をさらさらと流れてゆくその黒は、とても綺麗だと思った。
この人が私のことをどう思っているのか、それは分からない。
だけどその筆が走り出すまで、じっと待ってみるのも悪くないのではないかと、そう思った。
「あなたは詠まないのですか?」
「あ、はい。私も考えます」
同じ場所で同じ仕草をしていることに、ちょっとうれしくなって、見上げた顔でにっと微笑む。
晋太郎さんはすぐに視線をそらした。
「さぁ! 気合い入れて詠みますよ」
「あなたもどこかで、習ったことはあるのでしょう?」
「あまり得意ではありませんでしたけどね」
若葉が風に揺れる。
ここはこの人の、大切な庭……。
取り出した短冊は、圧倒的に白かった。
そもそも和歌だなんてものは、性に合わない。
「しまった……。もっとラクなものを言っておけばよかった……」
竹馬? 独楽回し?
いやいや、今はそんなことを考えている場合ではない。
白すぎる短冊と向かい合う。
どれだけ頭をひねっても、ロクなものが出てこない。
私はそれを文台に放り投げた。
いいや、そのままの自分で行こう。
何もなくたっていいじゃない。
あの人にどう思われようと、あの人がどう思おうと、今の私の立場は変わらない。
何を頑張ったところで、どうにもならないのだ。
「失礼します」
そっと板戸を開く。
細くたおやかな身を真っ直ぐに伸ばし、芽吹いた草はすっかり大きくなっていた。
若くみずみずしい清らかな葉を広げ、緑一面になった庭を前に、その人は座っていた。
あぁ、晋太郎さんは、この庭を本当に大切にしていたのだ。
そっと柔らかな風が吹く。
「鮮やかな、緑のお庭だったのですね」
「……。だから、手出しは無用と言ったのです」
何もない地面の下に、こんなものが隠されていただなんて、思いもしなかった。
「すみませんでした」
「もうそのことはよいのです」
静かな横顔は、わずかにうつむいた。
「句をみましょう。お出しなさい」
「は、恥ずかしいので、まずは基礎から教えていただけませんか」
「詠んだ句をみてほしいのではなかったのですか?」
首を横に振る。
恥ずかしいのもみっともないのも、全部承知の上だ。
「ここへ来る前に、全部捨てて参りました」
「……。分かりました。では最初から作りましょう」
その人は筆を手に取った。
しなやかな筆の先が青黒の墨に触れ、静かにそこを離れる。
紙面をさらさらと流れてゆくその黒は、とても綺麗だと思った。
この人が私のことをどう思っているのか、それは分からない。
だけどその筆が走り出すまで、じっと待ってみるのも悪くないのではないかと、そう思った。
「あなたは詠まないのですか?」
「あ、はい。私も考えます」
同じ場所で同じ仕草をしていることに、ちょっとうれしくなって、見上げた顔でにっと微笑む。
晋太郎さんはすぐに視線をそらした。
「さぁ! 気合い入れて詠みますよ」
「あなたもどこかで、習ったことはあるのでしょう?」
「あまり得意ではありませんでしたけどね」
若葉が風に揺れる。
ここはこの人の、大切な庭……。