朝が来て、そっと起き上がった。

衝立の向こうはとっくに空っぽで、そんな光景も、もう見慣れたもんだ。

「おはようございます。朝餉の支度が出来ました」

廊下で正座をして、指先を床につき丁寧に頭を下げる。

晋太郎さんは振り返った。

「今朝は晋太郎さんのお好きな筍を焼かせていただきました」

その人は明らかにムッと眉根を寄せ、難しい顔で私を見下ろす。

「さぁ、参りましょう」

「……。分かりました」

渋々と立ち上がると、ゆっくりと歩きだす。

私はその後ろをしずしずとついて歩いた。

なんて貞淑な嫁だ。

ちらりと晋太郎さんがこちらを振り返ったのを、最大級の微笑みで返す。

私は私なりの努力をすると決めたのだ。

好きにしてよいと言ったのは、晋太郎さん自身なのだから。

「食べ終わったら、私の詠んだ句をみてもらってもよろしいでしょうか。晋太郎さんは、和歌のたしなみもおありとお伺いしたので」

朝餉の席につく。

普通に無視されたって、全然平気。

お茶碗に炊いたご飯をよそうと、そっと差し出した。

「あの……。和歌の手習いをお願いしたいのですが……」

「……。お断りします。私は他にしなければならないことがありますので」

「ですが、晋太郎さんはずっと奥の部屋に籠もりっきりで、私と顔を合わすことはほとんどないではありませんか。もう少し夫婦の絆というものを……」

「志乃さん」

その人は私の言葉を遮った。

じっと見下ろしてくるその目に、私は負けないようにと、ぐっと見上げる。

「私に構う必要はないと、昨夜も散々申し上げました。あなたはあなたの好きなようになさってくださって結構なのですよ。遠慮は不要だと、あれほど互いに確認しあったではないですか。必要なら私の方からお願いするので、それまでは……」

「晋太郎。みておやりなさい」

お義父さまが口を開いた。

その一言にシンと静まりかえる。

お義父さまのすすった味噌汁の音が響く。

「志乃さんの句を、みておやりなさい」

「……。分かりました。では、そういたします」

静かな朝餉の席になった。

食事を終えたお義父さまは、お勤めに出られる。

それを義母と見送った。

「さ、片付けはこちらでやっておくから、あなたは早く行ってらっしゃい」

ぽんと肩を叩かれた。

お義母さまはにこっと微笑む。

「頑張ってね」

「はい」

とは答えてみたものの、実はまともに和歌だなんて詠んだことはない。

とっさに口から出たでまかせだったのに……。

困った。

お義母さまの趣味の会に付き合って、見よう見まねで筆を持ってみたくらいしかしたことない。

教えてもらおうにも、何一つ詠んだ句などないのに……。

「よし、何とかしよう!」

お義父さまにまで言われた以上、ここで引き下がるわけにはいかない。

文台から紙と筆を取り出す。