「あなたが気にするほどのことではありませんよ」

「左手です」

動こうとしないその人の、袖から伸びた拳にそっと触れる。

ずいぶん大きな手だ。

ゆっくり開くと、何ともなっていないように見える。

「やけどを、してはいないのですか?」

「……。あなたの手は大丈夫でしたか」

パッと手を離した。

私の手は、取っ手をつかんだ部分が一直線に赤くなっている。

「わ、私は、大丈夫です」

痛みがないわけではないけど、余計な心配もかけたくない。

寝巻きの袖を引っぱって、見られないように隠した。

晋太郎さんはそんな私を、じっと見つめている。

「私の手をみたのですから、あなたの手をみてもいいですか」

「え?」

大きな手が伸びてくる。

晋太郎さんの手が私の手に触れ、それを開いた。

「あぁ、赤くなっているではないですか。利き手がこれでは、今日の仕事は辛かったでしょう」

触れられている手の方が熱くて、すぐに引っ込めたい。

「そ、そんなことはないです」

どうしていいのか分からなくて、おずおずとその手を引っ込めた。

恥ずかしさに背の後ろに隠す。

「やはり女人には、気安く触れるものではありませんね。失礼しました」

「わ、私は大丈夫です!」

「あなたが大丈夫なら、わたしも大丈夫ですよ」

「でも……」

「でも?」

立ち上がったその人を見上げる。

「あなたも疲れたでしょう。早くおやすみなさい」

「……。はい。おやすみなさい」

この人は衝立の向こうへ行ってしまう。

横になると、すぐに背を向け布団をかぶってしまった。

行燈の明かりを消す。

真っ暗になった部屋で、私も布団に潜り込んだ。