そうやって腹をくくり、構えて待っているというのに、いつまで経ってもやって来る気配はない。

夜はとうに更けた。

絶対に起きて待っていようと思っているのに、眠気に押されてしまっている。

やがてウトウトとしてきた。

話す内容をもう一度復習する。

今日の夕餉で美味しかったと思ったところと、明日の朝餉のこと。

それなら毎日聞けるし、返事にも困らないだろうから。

朝餉に添える漬物の話しをすれば、ちゃんとあの人の望み通りに出来るし。

白菜と大根の漬物があるから、それのどっちが好きかを聞いて、お義母さまや台所を手伝う奉公人さんたちにはバレないように、こっそり多めに皿に盛ってあげれば……。

そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていて、目を覚ました時にはすでに朝日が昇っていた。

私の上には布団が掛けられていて、衝立の向こうのあの人の布団は、なに一つ乱れていないままだ。

朝餉になっても、食事に現れない。

「晋太郎さんは、どうしたのでしょうか」

空席のままになっている隣の席で、味噌汁はすっかり冷めてしまった。

「さぁ、私に聞かれても分かりません」

いつも元気なお義母さまは、今日は味方になってくれないらしい。

助けてくれるって言ったのに……。

「あの、私が行ってみても、大丈夫でしょうか?」

「どこへ?」

「奥の部屋へ……」

義母はあっけにとられたような顔をする。

「そんなこと、私に聞く?」

義母は一番に朝餉を食べ終えると、ため息をついた。

「行きたいなら、行ってきなさいよ。夫婦なんでしょ?」

今朝のお義母さまは素っ気ない。

滅入りそうな私を見て、お祖母さまが口を開いた。

「晋太郎は優しい子だから、志乃さんのことも悪くは思ってないはずですよ。気にせず行ってらっしゃい」

そうだ。そうだよね。

遠慮はいらないと言ったのだから、私だって遠慮する必要はないのだ。

どうすればいいのかなんて、考えたって分からない。

分からないことは考えてもしょうがないので、考える必要もない。

正直、待っているのは私の性に合ってないんだった!

「はい! では、行って参ります!」

私と晋太郎さんは、ちゃんとした夫婦なんだから! 

お義母さまとお祖母さまの応援を受けて、気合い入れに帯をバシバシ叩く。

あの人の好物だという籠八屋のあん餅を武器に、いざ敵地へと赴かん!