『笑えたよ。たっくさん笑えた!
伊織がいて救われたこともたくさんあったよ』
最後に葵に訊いた質問の答え。
この言葉を聴いて泣きそうになった。
この言葉から葵が嘘をついてるようには見えない。
俺は少しでも葵の心を救えたんだ。
それだけでもう明日俺の未来が終わってもいいと思えた。
俺の果たすべきことのひとつが終わった。
後は明日をまつのみ。
今日までめちゃくちゃたのしかったな。
過ぎていく時は一瞬で、毎日毎日巡り続ける。
学校での生活、遊園地、海、花火大会はもちろんたのしかったけど、なんてことない会話さえもすごくたのしかった。
こんなに日常が輝いていた。
葵を喪ったときの俺は気づけなかったけど、こんなにも幸せだったんだ。
なにげない時間もすごく大切なものだった。
目には見えないけど小さな幸せは、たしかに近くにたくさんあった。
俺はそれだけでもう。
運命の日。
俺は前と同じく葵を星空公園に呼び出した。
あの日となにも変わらない。
変わるのは俺が事故のことを未来のことを知ってるだけ。
当然俺がいるのは星空公園じゃなくて事故が起こるはずの交差点。
未来が変わっていないのならここで事故は起きる。
なんか、信じられない。
この場所で事故が起こるなんて。
いつも通り車が走っていて、歩道には人が歩いていてる。
でも、起きたんだ、実際に。
俺は死ぬつもりで今日まで生きてきた。
だから、怖くない。
怖くない、はずなのに。
葵をひとりしたくないとも思ってしまう。
由乃ちゃんは葵にお誕生日おめでとうって言えたかな。
言えなくて後悔してた由乃ちゃんを近くで見てたから、俺は葵を由乃ちゃんの家に行くように伝えた。
前の世界とこの世界のつながりなんてないと思うけど、それでも前の由乃ちゃんの後悔が少しでも軽くなればいいな。
そんなことを考えていると、少し先で耳を引き裂くようなブレーキ音。
俺の足は葵の背中に向かって足を進める。
トラックが横転して、葵の前に衝突しようとしていた。
俺は勢く走った。
「あおい!」
俺、葵のこと、好きじゃなかった。
ほんとは愛してた。
ドンと強くその背中を押した。