次の日、登校してきたばかりの成田さんが僕の肩に手をポンと置く。


「おはよう」


挨拶をする時に、ボディタッチするなんて、相変わらずフレンドリーな人だな。

成田さんから触れてくることを拒まず受け入れる。

その時に浮かび上がる数字。


【20.95】


昨日から1年と1日、余命が減っている。

不自然な減り方。


「……おはよう」


なんとか挨拶を返すけど、僕の頭の中は成田さんの余命のことで埋め尽くされている。

昨日からずっと考えていた。

いくら考えても最後に行きつくのはただ一つの事実。

死ぬはずだった男性の余命が1年延び、それと同時に成田さんの余命が1年減った。

ただそれだけ。

いたってシンプル。

だけど、どうしても受け入れがたい。

だって、それって、成田さんに余命をあげる能力があるみたいじゃないか。


「そんな難しい顔してどうしたの?」


成田さんが自分の席に座ってすぐ、僕を振り返る。

彼女は知っているのだろうか。

自分の余命が減っていることについて。

他人に自分の余命をあげる能力があるかもしれないことについて。

笑顔で僕を見つめる彼女の表情がだんだんと暗くなる。


「もしかして、昨日の……」


昨日、という単語に思わずドキッとする。


「そりゃそうだよね。目の前で事故なんかあったら、昨日の今日で忘れられない」
「あ、違くて……」
「違うんかい」
「いや、違うわけでもなくて……」
「どっち!?まぁでも、安心して。昨日の人は、生きてるって」
「どうして成田さんが知ってるの?」
「田舎ってすぐ情報回るんだから。今日も近所の人が言ってたよ」


……たしかに。

田舎はこういう情報がすぐに回る。

どこから聞くんだって思うくらい、少しでも変わったことがあれば噂される。

そこは納得できるから、頷いて受け入れた。

でも、本来ならあの男性は昨日死んでいたはずなんだ。