君が僕にくれた余命363日




次の日、登校してきたばかりの成田さんが僕の肩に手をポンと置く。


「おはよう」


挨拶をする時に、ボディタッチするなんて、相変わらずフレンドリーな人だな。

成田さんから触れてくることを拒まず受け入れる。

その時に浮かび上がる数字。


【20.95】


昨日から1年と1日、余命が減っている。

不自然な減り方。


「……おはよう」


なんとか挨拶を返すけど、僕の頭の中は成田さんの余命のことで埋め尽くされている。

昨日からずっと考えていた。

いくら考えても最後に行きつくのはただ一つの事実。

死ぬはずだった男性の余命が1年延び、それと同時に成田さんの余命が1年減った。

ただそれだけ。

いたってシンプル。

だけど、どうしても受け入れがたい。

だって、それって、成田さんに余命をあげる能力があるみたいじゃないか。


「そんな難しい顔してどうしたの?」


成田さんが自分の席に座ってすぐ、僕を振り返る。

彼女は知っているのだろうか。

自分の余命が減っていることについて。

他人に自分の余命をあげる能力があるかもしれないことについて。

笑顔で僕を見つめる彼女の表情がだんだんと暗くなる。


「もしかして、昨日の……」


昨日、という単語に思わずドキッとする。


「そりゃそうだよね。目の前で事故なんかあったら、昨日の今日で忘れられない」
「あ、違くて……」
「違うんかい」
「いや、違うわけでもなくて……」
「どっち!?まぁでも、安心して。昨日の人は、生きてるって」
「どうして成田さんが知ってるの?」
「田舎ってすぐ情報回るんだから。今日も近所の人が言ってたよ」


……たしかに。

田舎はこういう情報がすぐに回る。

どこから聞くんだって思うくらい、少しでも変わったことがあれば噂される。

そこは納得できるから、頷いて受け入れた。

でも、本来ならあの男性は昨日死んでいたはずなんだ。