そうして仕事にも、生活にもそれなりに慣れ始めた頃。
その日は私がお店の戸締り当番だった。閉店の時間を迎え、他の従業員が引き上げた後で、窓や勝手口の鍵を確認して、最後に出入り口の大きな扉にかんぬきをかける。
と、その時、扉の外でかすかに物音が聞こえたように思えた。
うん? 気のせいかな? それとも、こんな時間にお客さん?
不思議に思ってそっと扉を開けると、そこにはひとりの男性が横たわっていた。地面から少し高い位置にある入口。その間の3段の石段を這い上がる途中で力尽きたような体勢で。
ま、まさか、これが噂の行き倒れ!?
早く誰かに知らせなければ! いや、その前に暖かい室内に運び込むべき? それとも厨房に声をかけるのが先……?
初めてのことに混乱して立ち尽くしていた私の足首を、目の前の男性ががしっと掴んだ。
「ひっ?」
そのゾンビめいた仕草に、思わず小さな悲鳴を上げる私に対し、男性は顔を上げて、弱々しい声で告げる。
「頼む……何か食べさせてくれ……」