そのうちに体調も回復し、以前のように活動できるようになった。
 しかし、勝手のわからない世界で、知り合いもなく生きてゆくすべもない。
 途方にくれる私を不憫に思ったのか、なんと、私を保護してくれた銀のうさぎ亭のマスターが、ここで働かないかと提案してくれたのだ。

 相部屋だが、従業員用の寝室もあり、賄い付き。
 なんて素晴らしいんだ。わたしは一も二もなくその話に飛びついた。
 せめてこの世界の状況がわかるまでは安全に過ごしたい。

 聞けば、この食堂の前にはなぜか時々私のような行き倒れが現れるらしく、その度に介抱しては行き場のない者に仕事を提供してきたらしい。どうりで私を発見した女性の対応も手馴れているようだった。

 更には仕事を貰えるという噂を聞いた訳あり女性たちが、駆け込み寺のようにこの食堂に逃げこんでくることがあるらしく、そういった人に言えない複雑な事情を抱えた女性従業員も少なからず存在するのだ。そのせいか私も詳しい事情だとかをあれこれ聞かれずに済んだ。

 その事に密かに安堵する。異世界から来ました。なんて正直に言ったら頭のおかしい人に思われそうだし。かと言って、この世界に詳しくない私がそれらしい嘘をつけるとも思えなかったからだ。

 それに、一時的な避難所としてこの食堂で働く女性達は、転職や転居の目処が立てば、いつかは自立してここを出てゆく。だから、従業員が限りなく増えるという事もないらしく、今のところは少し従業員の多い食堂という事でなんとかやっていけているようだ。その代わりお給料は平均より低いらしいが。それでもありがたいことに変わりはなかった。

 しかし、それよりもなによりも不可解な点があった。
 こちらの世界に来てから、何故か私の容姿が大きく変化していたのだ。
 それに気づいたきっかけは、保護されてから数日後のことだったと記憶している。私の世話をしてくれていたイライザさんが、ベッドに上半身を起こした私の顔を覗き込んできた。

「お店の前に倒れてたって聞いた時はどうなる事かと思ったけど、随分と元気になったみたいね。顔色も毛艶も良いし、頬もふっくらしてきて。ほら、自分でもわかるでしょ?」

 顔色はともかく、毛艶ってなんだろう?
 そんな事を思いながらも差し出された手鏡を覗き込んだ途端、私の口から思わず

「……どなた?」

 という言葉が漏れた。