言いながら彼は立ち上がって振り返る。見ればそこには雪の塊。入り口上の小さな山形の屋根から滑り落ちてきたものらしい。
レオンさんが助けてくれなければどうなっていたか……考えると余計背筋が寒くなった。
「す、すみません……うっかりしてました」
私の実家にはこういう形状の屋根が無かったから、落雪の危険性を失念していた。なんたる不覚。
やがて落雪も片付け終えると、レオンさんは
「ちょっと危ねえとこもあったけど、今日は楽な方だったな。おつかれネコ子。後でこっそりニシンのオイル漬け食わせてやるよ。どうだ、嬉しいだろ」
と言いながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
名前の事といい、昨日のしっぽの件といい、この人はやたらと私を本物の猫のように扱ってくる。
「ちょっと、猫扱いしないでください!」
とは抗議したものの、耳のあたりを撫でられて気持ちいいとも思ってしまう。これも獣の性なのか。ちょっと悔しい。
「私は猫の特徴は持ってますけど、中身はごく普通の乙女なんですからね? ニシンのオイル漬けで心踊ったりしませんからね? それに、何度も言いますけど、私の名前はユキです。ネコ子じゃありません!」
「あー、はいはい。俺の脳みそに余裕があったら覚えとくよ」
「はい」という言葉は、二回以上連続して使われると、途端に真剣味が薄れるのは何故だろう。
レオンさんは私の言葉を受け流すようにさっさと自室に引っ込んだ。
私もかなり疲れていたが、レオンさんと違って休むわけにもいかない。他の従業員と共に開店準備をする事にした。といっても、開店時間にはまだ間があるので他の従業員はまだ休んでいて、仕事場にはイライザさんの姿だけが確認できる。
彼女はこのお店でも一番の古株で、よほどここが気に入っているのか、安月給でも文句ひとつ言わず、こうして朝早くから仕事に励んでいる。
雪掻きから戻ってきた私を見て
「ユキちゃん、雪掻きで早起きしたし疲れてるでしょ? ここは私だけで大丈夫だから、少し部屋で休んでらっしゃい。まだ開店までには時間があるし。マスターには私から伝えておくから」
などと優しい言葉をかけてくれた。
レオンさんが助けてくれなければどうなっていたか……考えると余計背筋が寒くなった。
「す、すみません……うっかりしてました」
私の実家にはこういう形状の屋根が無かったから、落雪の危険性を失念していた。なんたる不覚。
やがて落雪も片付け終えると、レオンさんは
「ちょっと危ねえとこもあったけど、今日は楽な方だったな。おつかれネコ子。後でこっそりニシンのオイル漬け食わせてやるよ。どうだ、嬉しいだろ」
と言いながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
名前の事といい、昨日のしっぽの件といい、この人はやたらと私を本物の猫のように扱ってくる。
「ちょっと、猫扱いしないでください!」
とは抗議したものの、耳のあたりを撫でられて気持ちいいとも思ってしまう。これも獣の性なのか。ちょっと悔しい。
「私は猫の特徴は持ってますけど、中身はごく普通の乙女なんですからね? ニシンのオイル漬けで心踊ったりしませんからね? それに、何度も言いますけど、私の名前はユキです。ネコ子じゃありません!」
「あー、はいはい。俺の脳みそに余裕があったら覚えとくよ」
「はい」という言葉は、二回以上連続して使われると、途端に真剣味が薄れるのは何故だろう。
レオンさんは私の言葉を受け流すようにさっさと自室に引っ込んだ。
私もかなり疲れていたが、レオンさんと違って休むわけにもいかない。他の従業員と共に開店準備をする事にした。といっても、開店時間にはまだ間があるので他の従業員はまだ休んでいて、仕事場にはイライザさんの姿だけが確認できる。
彼女はこのお店でも一番の古株で、よほどここが気に入っているのか、安月給でも文句ひとつ言わず、こうして朝早くから仕事に励んでいる。
雪掻きから戻ってきた私を見て
「ユキちゃん、雪掻きで早起きしたし疲れてるでしょ? ここは私だけで大丈夫だから、少し部屋で休んでらっしゃい。まだ開店までには時間があるし。マスターには私から伝えておくから」
などと優しい言葉をかけてくれた。