「あれ、レオンさん、火の番は?」
「マスターが交代してくれた」
「それじゃあ、もうお仕事終わりですよね。寝なくて大丈夫なんですか?」

 夜通し火の番をしていて疲れているだろうに。

「馬鹿野郎。店の前がこんな状態なのに呑気に休んでなんかいられるかよ。それに雪掻きは本来俺の仕事だしな。これくらいどうって事ねえよ。終わったら好きなだけ寝るさ」

 雪掻きのような力仕事は元々は男性従業員の担当だったのだが、その肝心の男性が、このお店にはマスターを除くと現在レオンさんしかおらず、自然と彼ひとりで雪掻きする事態になっていたらしい。

 そこに私が加わったことによって、二人で作業を分担できるようになり、今では積雪の量によっては私ひとりで雪掻きする事もある。
 今日は私だけで作業することになるかと恐々していたのだが、レオンさんは自分の睡眠時間を削って手伝ってくれるらしい。そういう自分の仕事に対する姿勢は立派だ。

 そうしているうちに水路使用可能時刻が訪れたので、蓋を開けた水路に次々と雪を投入してゆく。

 除雪するのは入口の前だけではない。建物の前面全てだ。雪が高く積もれば窓が塞がれて店内が暗くなるし、圧力でガラスが割れる危険だってある。それを防ぐためにお店の周囲はいつでもすっきりさせておかなければならないのだ。

 けれど、隣接する建物はほぼ隙間なく建っているし、お店の右隣は国を囲う塀で行き止まりだし、背面は高い位置に小さい窓があるだけだから除雪の必要はない。だからこれでも楽な方なのだ。
 
 お店の前の雪を片付け終わり、私は腰に手を当て体を伸ばす。

「うーん、今日も頑張ったー」

 その時

「危ない!」

 という声とともに、強く身体を押される感触。
 気がつけば地面に仰向けに倒れ込んでいた。
 何が起こったのかと瞬きしながら見上げると、すぐ近くにレオンさんの顔が。

「まったく、お前、ほんとに雪国出身なのかよ。屋根の下には迂闊に近寄るな。これ鉄則だぞ。もう少しで雪の下敷きになるとこだった」