「ユキちゃん、5番テーブルにお料理運んでちょうだい」
「はい。ただいま」
名前を呼ばれ、言われた通りにテーブルに出来たての料理を運ぶと、そこには常連客の顔が並んでいる。
それを見て、一瞬心臓が跳ね上がるが、平静を装い料理を乗せたお盆をテーブルに置く。
「ユキちゃん、今日もかわいいね。その柔らかそうな猫耳触らせてよ」
中年の男性客のうちのひとりがにやにやとからかうような笑みを浮かべながら声をかけてくる。
一見普通の世間話のようだが、わたしは一瞬で緊張に体を強張らせた。
「いえいえ、私なんかに構ってたら美味しいお料理が冷めちゃいますからね。そんなのもったいないですよ。さあさあ、当店名物の『妖精の森の秋の収穫祭』をどうぞ」
当たり障りのない会話でそそくさと料理を置いて踵を返したその時、尻尾を撫でられる感触とともに、背中にぞくりとした悪寒が走った。
件の男性客が、制服のスカートからはみ出る私の長いしっぽの先を扱くように撫でたのだ。
「ぎゃあ!」
慌てて逃げ出す私の背後から、男性客達の爆笑が聞こえた。
「『銀のうさぎ亭』っていうより『黒猫亭』のほうが良いんじゃねえか?」
という声と共に。
店内の隅っこで私は憤る。
「うう……いくらしっぽと言ったって、私にとっては身体の一部も同然です。それなのに冗談とはいえ毎回躊躇いもなく触るだなんて神経疑います。私、あの人のこと恨みます。いつか恨み殺します」
「あら、また? 大変だったわね。でも、呪い殺すならまだしも、恨み殺すのは難しいかも……あそこのテーブルには私が行くべきだったわ。ごめんなさいね。今度からあの人達が来たら私に言って」
「い、いえいえ、イライザさんのせいじゃありませんよ。私のあしらい方が下手なだけ……」
私の恨みのこもった愚痴に対して、先輩ウェイトレスであるイライザさんが気遣わしげに声をかけてくれる。褐色の肌に白く長い髪と青い瞳を持つ、エキゾチックな美人さんだ。おまけに面倒見が良くて優しい。
彼女の慰めを受けて、先ほどの出来事でささくれだっていた心が少し和らいだ。
「はい。ただいま」
名前を呼ばれ、言われた通りにテーブルに出来たての料理を運ぶと、そこには常連客の顔が並んでいる。
それを見て、一瞬心臓が跳ね上がるが、平静を装い料理を乗せたお盆をテーブルに置く。
「ユキちゃん、今日もかわいいね。その柔らかそうな猫耳触らせてよ」
中年の男性客のうちのひとりがにやにやとからかうような笑みを浮かべながら声をかけてくる。
一見普通の世間話のようだが、わたしは一瞬で緊張に体を強張らせた。
「いえいえ、私なんかに構ってたら美味しいお料理が冷めちゃいますからね。そんなのもったいないですよ。さあさあ、当店名物の『妖精の森の秋の収穫祭』をどうぞ」
当たり障りのない会話でそそくさと料理を置いて踵を返したその時、尻尾を撫でられる感触とともに、背中にぞくりとした悪寒が走った。
件の男性客が、制服のスカートからはみ出る私の長いしっぽの先を扱くように撫でたのだ。
「ぎゃあ!」
慌てて逃げ出す私の背後から、男性客達の爆笑が聞こえた。
「『銀のうさぎ亭』っていうより『黒猫亭』のほうが良いんじゃねえか?」
という声と共に。
店内の隅っこで私は憤る。
「うう……いくらしっぽと言ったって、私にとっては身体の一部も同然です。それなのに冗談とはいえ毎回躊躇いもなく触るだなんて神経疑います。私、あの人のこと恨みます。いつか恨み殺します」
「あら、また? 大変だったわね。でも、呪い殺すならまだしも、恨み殺すのは難しいかも……あそこのテーブルには私が行くべきだったわ。ごめんなさいね。今度からあの人達が来たら私に言って」
「い、いえいえ、イライザさんのせいじゃありませんよ。私のあしらい方が下手なだけ……」
私の恨みのこもった愚痴に対して、先輩ウェイトレスであるイライザさんが気遣わしげに声をかけてくれる。褐色の肌に白く長い髪と青い瞳を持つ、エキゾチックな美人さんだ。おまけに面倒見が良くて優しい。
彼女の慰めを受けて、先ほどの出来事でささくれだっていた心が少し和らいだ。