男性を見送った後で、厨房で後片付けをしていると、レオンさんが大鍋をかき混ぜながら苛立ったように声を上げる。

「おいネコ子。お前なに勝手に店の備品を人にくれちまってるんだよ。おまけに皿まで渡しやがって」

「そ、それは、だって、店名入りのものなら強く印象に残ると思って……それにあの人、お皿も返してくれるって約束したし……それがきっかけでお客さんが増えるならいいじゃないですか」

「あいつの言った事間に受けてんのか? どこの誰かも知らないのに? まったくお前の頭の中はお花畑だな。あのうさんくさい男みたいに、そのうち本当に頭から花でも生えてくるんじゃねえの? ボケの花がよ」

 うう……そこまで言わなくても……
 でも、レオンさんのいう通り、考えが甘かったかな。ここは日本じゃないのだ。以前の感覚で多少平和ボケしているところはあるかもしれない。もしかするとここはヨハネスブルグ並み……とまではいかないが、私の知っている日本ほど治安のいい国では無いかもしれない。いい人ばかりとは限らないのだ。

「と、いうわけで取引だ」

「え?」

 突然のレオンさんの言葉の意味がよく飲み込めない。取引って?

「ナプキンと皿の事はマスターに黙っててやる」

「え、ほんとですか?」

「ああ。その代わり……さっきの林檎のうさぎの作り方を教えろ」

 もしかして気になってたのかな? それならそうと取引なんてしなくとも、素直に言えばいくらでも教えるのに。
 でも、マスターに黙っていてくれるというのはありがたい。私はその取引を受ける事にした。

 といっても、林檎のうさぎなんて別段難しいものでもなく、レオンさんはさほど苦労する事もなくさらりと作り方を習得してしまった。

「でもレオンさん、林檎のうさぎの作り方なんて覚えてどうするんですか?」

「客に出せば喜ぶかもしれないだろ。店の名前とも相性良さそうだし……そうだ。このうさぎ、目の代わりにゴマでもくっ付けたらもっとそれらしく見えるかもしれねえな。今度マスターに提案してみるか」

 なるほど。銀のうさぎ亭だから林檎のうさぎか。お客さんに印象付けるにはいいかもしれない。
 レオンさんて、意外と研究熱心だな。