もしかしてレオンさんも疲れていて、甘いものが欲しかったのかな。

 彼は明日の仕込みをしつつ、この食堂の名物メニューにも使われるスープストックを作るため、朝まで火の番をする事になっている。その代わり明日は夕方までお休みらしいが。それにしてもご苦労な事だ。

 私は林檎が一切れ減ったお皿にナプキンを被せて再び男性の元へ戻る。

「この林檎、よかったら持って帰って後で食べてください。歯の痛みが治まった頃にでも。あ、でもお皿はいつか返してくださいよ。ナプキンは差し上げますので」

 お皿を差し出すと、男性は戸惑ったように口ごもる。

「その気遣いはありがたいが……また制作に没頭して忘れてしまうかもしれない……」

「ここを見てください。このナプキン、お店の名前が入っているでしょう? 『銀のうさぎ亭』って。作品を制作する時に、この上によく使う道具なんかを置いてください。そうすれば制作中にもこのナプキンが目に入りますよね? その結果、今日の事を思い出して、こまめに休憩を取るようになるかもしれないし、お皿の事だって忘れないはず。それで、休憩がてらお皿を返しにきて頂ければ……更には、そのついでにこのお店でお食事をして頂ければ嬉しいなーと」

 私の言葉に男性はふっと表情を緩めた。

「案外商魂たくましいな。しかし、いい考えかもしれない。林檎を平らげたら、近いうちに必ず皿を返しにくると約束しよう。その時は勿論食事も兼ねてな」

「ほんとですか?  ありがとうございます!」

「先程のサンドイッチは美味かった。おまけにこんな気遣いまでしてくれるとは。また来たくなるのも当然だろう?」

 男性は林檎の乗ったお皿を受け取りながら微笑んだ。
 よし、お客さんひとりゲット!