問うと、男性は私の顔を見つめて何度か瞬きする。

「どうしてそんな事がわかるのだ?」

「虫歯じゃないのに歯が痛いって言ってたし、それに、さっき手を洗ってたから、手が汚れるお仕事なのかなーと」

「手はともかく、歯痛になんの関係が?」

「芸術家とか、何かものを作る仕事をしてる人って、作業に集中しすぎて無意識に歯を食いしばってしまう事が多いって聞いた事があります。それが原因で歯が痛くなるって」

 日本でも、大量の絵を描いた後で「歯が痛い」というコメントを残した画家がいたとか。

「加えて、先ほどお客様は朝食以外口にしていないと仰ってたし、もしかして、朝からずっと何かを作ってたんじゃないですか? 今日みたいに長時間でないにせよ、仕事自体は毎日するだろうし、そのたびに歯を食いしばってたら痛くなって当然ですよ」

 男性は心当たりがあるのか頬のあたりを撫でている。
 その姿を見ながら私は続ける。

「でも、どこかの工房だとか複数人で作業する場所で働いてるなら、食事をとるのための休憩なんかは必ずあるだろうし、制作を中断する事で歯をくいしばる事もある程度避けられるはず。それなのに昼食もとらずにこんな時間まで制作に没頭してしまうのは、職場にあなた以外存在しない。つまりお客様は個人で活動している芸術家、もしくは職人だと思ったんです」

「ほう。そんな事までわかるのか。なかなかの観察眼だ」

 私の推測に、男性は感嘆の声を上げる。

「当たっている。実は我輩は画家なのだ。いずれ偉大な功績を上げる予定の」

 いずれ、ということは今は……? 
 そんな疑問がかすめたが、画家という言葉に私は身を乗り出す。

「画家さんですか。すごい。どんな絵を描かれるんですか?」