そんな事を考えている間にも、男性は

「うん、うまいぞ」

 と呟きながら満足げに甘いサンドイッチを平らげてゆく。
 その姿に、私もなんだか嬉しくなってしまった。

 以前に読んだグルメ漫画で、仕事で疲れている人に甘いサンドイッチを差し入れて喜ばれるというエピソードがあった。それを思い出して似たような事を実行してみたのだが、どうやら喜んでもらえたみたいだ。

 レオンさんにどやされながらカスタードクリームを作った甲斐があったというものだ。

「そうだ。せっかくだからデザートに果物でもお持ちしますね」

 喜ばれると更にサービスしたくなってしまう。少しくらいならいいよね……?
 厨房で林檎を切りわけると、お皿に盛り付けて男性の元へ戻る。
 しかし、男性は林檎をひとつ手に取ったかと思うと、なぜか食べようとはせずにそれをじっと見つめている。

「どうしてこんなふうに中途半端に林檎の皮を残しているのだ?」

 男性が何を言っているのかよくわからなかった。
 私が作ったのは日本でもよく見られた林檎のうさぎ。皮を耳に見立てたアレだ。

「どうしてって……うさぎだからですけど……」

「うさぎ?」

「ほら、この皮の尖った部分がうさぎの耳で……」

 説明しながら気づいた。もしかして、この世界では林檎のうさぎというものの知名度が低い……? かぼちゃのランタンとかフルーツカービングだとかも存在しないのかな?
 それを肯定するかのように、男性は林檎のうさぎを色々な角度から眺め回している。

「なるほど。うさぎか。言われてみれば見えないこともない。ほほう。面白いな」

 言いながら林檎を齧ろうとしたが、その途端

「痛っ」

 と手で頬を押さえる仕草をする。

「虫歯ですか?」

「あ、いや、そういうわけではないのだが……」

そうは言うものの、男性は林檎を口にするのを躊躇っているようだ。

 虫歯じゃないのに歯が痛い。何故だろう。サンドイッチみたいな柔らかいものは平気みたいだったけれど。

 でも、似たような話をどこかで聞いたことがあるような……あれは確か……
 それが何だったか思い出した瞬間、私は口を開いていた。

「もしかして、お客様のお仕事って、芸術家とか、何かを作る職人さんですか?」