出来上がったサンドイッチを食べやすい大きさにカットして、手を洗い終えた男性客の元に運ぶ。

 お皿をテーブルに置いた途端、男性はサンドイッチを鷲掴むように、すごい勢いで食べ始めた。よほどおなかが空いていたのか。
 上手くできているか心配で、私もテーブルの傍らでその様子を見守る。
 男性がサンドイッチの何切れかを消費した時、何かに気づいたように呟いた。

「……このサンドイッチ、うまいな」

 あ、もしかして、褒められた? 褒められたよね?

 どうやらおなかが満たされるにつれ、味を認識できるようになったらしい。
 でも、空腹状態で食べるご飯というものは、自然と何割り増しか美味しく感じられるものだ。褒め言葉もほどほどに受け取っておこう。

 男性は、先ほどの勢いが嘘のように、ゆっくりとサンドイッチを消費してゆく。落ち着いて味わうように。

 やがてとあるサンドイッチを一切れ手に取ると口に運ぶ。
 と、次の瞬間、男性が驚いたように齧りかけのそれを見つめる。

「なんだこのサンドイッチは。甘い」

「それはパンにカスタードクリームを挟んだんです。お客様がお疲れのようだったので、そういう時は甘いものが欲しくなるかなーと思って……あ、もしかして甘いもの苦手でした?」

 私がおずおずと尋ねると、男性は首を横に振る。

「いや、逆だ。色からして、てっきり卵サンドかと思っていたから、予想していた味との落差に驚いて……確かに、お前の言う通り、我輩はちょっと疲れていて……ちょうど甘いものが欲しいとも思っていたのだ。気がきくではないか」

 なかなか独特な口調のお客さんだ。まるでどこかの偉い先生みたい。
 そんな私の思いに気づく様子もなく、男性はサンドイッチを手にしながら、こちらに顔を向けて微笑んだ。

 その時初めて男性の顔をはっきりと確認することができた。
 年の頃は20歳を少し超えたくらいだろうか。まっすぐな若草色の髪は肩より少し長いくらい。疲れのせいか少しやつれているようだが、顔立ちは整っているのがわかる。頬から顎にかけての柔らかな線が、中性的な印象を浮き立たせている。切れ長で涼しげな瞳は髪と同じ深緑。「かっこいい」というより「きれい」という言葉が似合いそうな人だった。