「そ、それよりも、あの人行き倒れ寸前だったんですよ。朝ごはん以外食べてないって言ってたし。だからお願いします。あの人のために何か作ってもらえませんか?」

「やだよ。俺だって忙しいんだ」

「レオンさん。かっこいい男の人が取る行動ってどんなのか知ってます? 女の人からのお願いに対して、必ず『もちろん』って答える事ですよ」

「俺には無縁な話だな」

「そんな事言わずに……なんだったら、その作りかけのスープストックを使った料理でも構いませんから」

「馬鹿野郎。このスープストックは朝までひと晩じっくり煮込む事で完成するんだぞ。中途半端な状態のものを食わせられるかよ。それに俺は他にも明日の仕込みで忙しい」」

「そ、そんな、私が行き倒れてた時は、みんな親切にしてくれたのに……」

「それは、あの時のお前が本当に『行き倒れ』だったからだ。命にかかわる状態ならみんな必死にもなるだろ? でもあの客はどうだ? 自分の足でテーブルまで歩いて、さらには手を洗いたいとか我がまま言いやがって。あんなのは行き倒れじゃねえ。余りもんでも食わせとけ。それに罪悪感を覚えるってならお前が自分で作れ」

「ええー……」

 日本でコンビニ食や出来合いのお惣菜なんかに頼っていた私には、この世界で料理することに対してはなかなかハードルが高い。当たり前だがカレーのルーや、だしの素だって存在しないのだから。