「な、何を……」

 星乃は更に赤坂に畳みかける。

「それに、以前に赤坂先輩は、先生に再び筆をとって欲しいといった意味合いの話をしていましたよね。粘土の林檎を見てもらうようにアドバイスもしてくれました。それなのに先生が私の似顔絵を描く事には反対した。何故でしょうか? 先生が絵を描くのなら先輩にとっても喜ばしい事のはずなのに。もしかして先輩は、先生に絵を、特に人物画を描かせたくなかった。先生がモデルに似ていない似顔絵を描く事によって、相貌失認だという事実に私達が気づくのではと懸念していたんじゃありませんか?」

 赤坂は黙り込むと狼狽えたように瞳を泳がせる。困惑と動揺。そして不安。こちらの反応は随分とわかりやすい。

 問題は――。

 星乃は再び蜂谷先生に向き直る。

 先生は何も答えない。答える気がないんだろうか。その様子を見つめながら、星乃は静かに息を吸い込む。

「……蜂谷先生、私の言っている事、間違っていますか?」

 更なる問いかけにもやはり彼は答えない。その瞳は俺達の顔を見ているようで、実のところ何も見えてはいないのかもしれない。それを証明するには……。

 ここから先は、できれば言いたくないとでもいうように、星乃は何度も躊躇いながら口を開く。

「……もし、間違っていると言うなら、その――今ここでもう一度、私の似顔絵を描いてもらえませんか? 今度は美化なんてしないで、私の本当の顔に似せて。人物画家なら、できますよね……?」

 これまでの推測が正しければ、今の星乃はなんて残酷な事を言っているのだろうと思う。顔が判別できない人物画家に似顔絵を描いてみせろだなんて。何の罪もない人間を処刑台に上らせるようなものだ。

 でも、星乃には、この方法しか思いつかなかった。