美術準備室の中を見回し、ドアや窓がしっかりと閉まっているのを確認してから、星乃は声を落とし気味に口を開く。
雪夜には部活に戻ってもらった。今ここにいるのは、俺と星乃、そして蜂谷先生と赤坂。
「蜂谷先生、騙すような事をしてすみませんでした。不快でしたよね。ごめんなさい」
「菜野花畑星乃。お前一体何のつもりだよ。ドッキリかなんかか? すっかり騙されちまったぜ」
赤坂が肩をすくめながら微かに笑う。が、顔は強張っており、その声も掠れている。
「ごめんなさい……でも、いたずらなんかじゃありません。どうしても確かめたい事があったので……」
蜂谷先生の様子を伺うが、彼の表情に変化はない。その事に少し戸惑った様子ながらも星乃は続ける。
「蜂谷先生。先生は普段誰かを判別する際に、髪型や服装、体型などを基準にしているんじゃありませんか? つまり顔は判断基準に入れていない。いえ、入れられないのでは? だから、女子の格好をした望月先輩を私と間違えた上に、蓮上先輩に言われるまま、目の下にほくろがあると思い込んで似顔絵に描き加えてしまった」
星乃はそこで言葉を切って、蜂谷先生の表情を伺う。
「蜂谷先生、もしかして先生は――人の顔が判別できない、いわゆる相貌失認なんじゃありませんか? おそらく、自分自身の顔さえもわからないほどの」