「でも、全然似てない」

「もう、蓮上先輩はまだそんな事を!」

 俺の茶々に星乃はむくれるが、隣の雪夜は、何故だか複雑な顔で星乃と似顔絵を見比べる。

「う〜ん……確かにこの似顔絵はすごーく上手だけど……僕も才蔵の意見に賛同するところはあるんだよね」

「な⁉ 望月先輩まで似顔絵のほうが美少女だとおっしゃるので⁉」

「そういう意味じゃなくて……正直言うと、単純にこの似顔絵とほしのん本人とは似てないかなーって。似顔絵のほうがちょっと大人びてる感じもするし。あ、でも、実物のほしのんも間違いなくかわいいよ。左目の下のほくろが特にチャームポイントかな。この似顔絵には描かれてないけど」

 なんでこいつはこんな恥ずかしい台詞をさらりと言えるんだ。鳥肌が立ちそうだ。いや、それともこういう奴が「モテるタイプ」なのか?

 星乃もまんざらでもなさそうに、にやにやしている。似顔絵を美少女に描かれた事と、雪夜の言葉で余計な自信を持ってしまったのかもしれない。いや、自信を持つのはいい事だ。

 だがこれはうざいほうの自信だ。自信過剰というやつだ。

「むむむ。でも、言われてみれば確かにほくろが描かれてませんね。普通なら、そんなわかりやすい特徴は真っ先に描きそうですけど……もしかして、やっぱり突然あんなお願いして迷惑だったのかな。先生も『期待しないでほしい』って言ってたし。調子が悪かったのかも……」

 星乃は絵を置くと、自分の左目の下あたりに人差し指で触れる。

 俺はその隙に似顔絵を覗き込む。たしかに紙の中の少女にはほくろが描かれていない。そのせいで余計に星乃本人からかけ離れている印象が強い。

 単に見落としただけ? 他に理由があって敢えて描かなかった……? それともやっぱり、傷めた腕のせいで正確に描写できなかった? でも、それにしては髪や服装はやけに克明に描写されている。なんとなくアンバランスだ。
 そんな事を考えていると予鈴が鳴り響いた。

「あ、やばっ。着替えないと授業に間に合わなくっちゃう。僕もう行くね」
 次の瞬間、はっとしたように星乃が勢いよく膝立ちになって雪夜の袖を掴む。

「うわっ⁉」

 立ち上がろうとしたところを引っ張られ、声を上げ尻餅をつく雪夜。そんな悲鳴に構うことなく星乃は身を乗り出して、雪夜に這い寄りながら覆い被さるような姿勢になる。

 な、なんだ? 近いぞ……。

 そのまま星乃は雪夜をみつめて口を開く。

「望月先輩! 私の人生を三分差し上げるので、先輩の人生を私に三分ください!」