「やっほー。才蔵にほしのん。元気?」

 立っていたのは一人の女子生徒。緩やかに波打ったミルクティー色の髪。なんとなく雰囲気が星乃に似ている。ていうか誰だ? こんな知り合いに心当たりがない。

「なに二人ともぽかんとしてるの? 僕だよ僕」

 女子生徒は片目を瞑った。その悪戯っぽい表情と、聞き覚えのある声。

「……まさか、雪夜か?」

「えっ⁉ 望月先輩⁉」

「ぴんぽんぴんぽーん。実は今度の部活の演目で女子役をする事になってね。その扮装がこれ。結構よくできてるから二人に見せに来ちゃった」

 得意げに胸を張るとピースサインを決める。

「わあ、似合ってます! 本物の女子で充分通用するくらい!」

 それは男子にとって誉め言葉なのか? いや、でも役者にとっては誉め言葉になるのかもしれないし……。

 それはそれとして、星乃の言った通り確かに似合ってる……というか、なかなかかわい――いやいや、相手は雪夜だぞ? 正気になるんだ俺。

 雪夜は星乃の隣に屈みこむ。

「ちなみに、外見の特徴はほしのんを参考にしましたー。どう? 似てる? うぇーい、うぇーい」

「うぇーい」

 二人は仲よさそうにハイタッチ。なんだこのノリは。

 そんな事を考えた途端に、星乃がはっとしたように手をひっこめる。

「は! わ、私としたことが、出会って間もない望月先輩にこんな馴れ馴れしい真似を! どうかお許しを!」

「え? どうしたの急に。別に僕は気にしてないよ」

 雪夜はきょとんとしているが、星乃は恐縮している。

 そういえば、こいつは自分がうざいから周囲から浮いてると思っているんだったっけ。雪夜に対しても気安い態度を取ってしまったと後悔しているのかもしれない。

 不思議そうな顔をしながらも、雪夜は星乃の持つ似顔絵に目を留めた。

「わあ、なにこれすごい! この絵、どうしたの?」

 その途端、星乃は得意げに笑顔を浮かべた。まったく、表情がくるくる変わるやつだな。

「えっへん。何を隠そう、蜂谷先生に描いて貰った私の似顔絵です。どうですか? すごいでしょ。でしょ?」

「へえ。めちゃくちゃ上手いね。さすが美術教師。僕も描いて貰いたいなあ」

 つい先ほどまでの恐縮っぷりはどこへやら、誇らしげに胸を張る星乃に、雪夜が感嘆の声を上げる。