俺は星乃を前に押し出す。

「え? え? 似顔絵⁉」

 星乃は驚いたように俺を見上げる。それはそうだろう。彼女にはこの計画は話していない。エスキースは建前で、本当の目的はこちらだったからだ。

 すでに存在するエスキースを見せて貰うのとはわけが違う。新たに絵を描けと言っているのだ。今ここで。

「ちょ、ちょっと蓮上先輩、そんな事、急に頼んだら失礼ですよ……!」

 さすがに星乃が小声で諫めてくる。まさか彼女も先生の絵を見る方法がこんな内容だとは予測していなかったのだろう。だから俺も今まで黙っていたのだ。

「おい、蓮上才蔵! お前なにふざけた事言ってんだよ!」

 赤坂も怒りをはらんだ声を上げる。が、俺は蜂谷先生だけをみつめる。

「さっきも言いましたよね。菜野花畑は先生の絵を見る事を楽しみにしてたって。そのきっかけが、先生の『ある少女』という肖像画だったんです。入部できないのなら、せめてこいつに似顔絵を描いてやってもらえませんか? 以前には小鳥遊先輩の肖像画も描いたんでしょう? それなら似顔絵だって描けるはずですよね? お願いします。俺達、先生の絵を見るまでは諦めきれません……!」

 星乃は慌てたように俺の袖を掴む。

「や、やめましょうよ先輩。そんなのご迷惑ですよ。私の事はもういいですから……! 先生、変なお願いをしてすみませんでした」

 頭を下げて俺の腕を引っ張ったその時

「……わかった。そこまで言うのなら描こう。ただし期待はしないでくれ」