推測はとりあえず置いておくことにして、俺は星乃に問う。
 
「でも星乃。実際のところどうするんだ? 赤坂の話を聞く限り、このままじゃ正式に美術部に入部できるとも思えないんだが」

 言いながらこれまでの事を思い返す。

 蜂谷先生は相変わらず入部届を受け取ってはくれず、美術準備室からもほとんど出てこない。

 それに、赤坂から聞いた例の肖像画や、先生の怪我の話のせいで、元から先生の周囲に漂っていた話しかけづらい雰囲気が増してしまった気がする。

 俺達の存在そのものが、先生の古傷をえぐってしまっているのでは、という不安感が付きまとうのだ。

「私は諦めきれません!」

 星乃はどんっとテーブルを叩く。

「だって先生は確かに肖像画を描いたっていうんですから。だったら他の絵だって描けるはずじゃ? 私はそれが見たいんです。見たくて見たくてたまらないんです! あの一枚の肖像画に魅了されてしまったあの日から、私にとって蜂谷零一とはそれほどまでに特別な存在なんです!」

 これほどまでに真剣に熱い想いを語る星乃を今までに見た事があるだろうか。蜂谷先生の作品によほどの思い入れがあるんだろう。

 できる事なら美術部に入部させてやりたい。なにせ、星乃は俺の恩人でもあるのだから。

「こうなったら私、しばらく美術準備室に行くのは控えようと思います」

「え?」

 俺は思わず声を上げる。今まで毎日のように押しかけていたのだから、その反応も妥当だと言っても差しつかえなかろう。

「アレですよ。『押して駄目なら引いてみろ』ってやつですよ。あんまりしつこくすると嫌われそうだし、そろそろ間を空けてみようかなって。せめてこの粘土の林檎が出来上がるまでは、美術室のみ出入りします」