「はい?」

 顔を上げる星乃に対して、俺は思い切って切り出す。

「……星乃は知ってるか? 中庭にある銅像の事」

「はて、銅像? 見た事あるような、ないような。いや、やっぱりあるような……むむむ。どんなんでしたっけ?」

「まあいい。百聞は一見にしかず。ちょっと中庭までついて来てくれ」

 俺達の通う高校の校舎は、上から見るとコの字型をしている。
 そのコの字の中にあたる部分。そこが『中庭』だ。

 芝生の生えた地面には歩道が整備され、花壇やベンチなんかもあり、生徒達のちょっとした憩いの場にもなっている。
 その中庭の片隅に設置されているのが問題の銅像。
 今、その前に俺達は並んで立っていた。
 幼い少年を模した等身大の銅像は、足を一歩後ろに引いて立ち、顔をやや下向けている。手は後ろで組んでいて、一見すると何か思案しているようにも感じられる。

「はー、こんな像があったんですねえ。知りませんでした。新発見」

 星乃は改まって像を眺め、そして首を傾げた。

「あれ? でもやっぱりこの像、どこかで見た事あるかなあ……? うーん……?」

「意識してなかっただけで、今までにも目にした事があるのかもしれないな。この場所にくれば視界に入る可能性は高いだろうし。ところで星乃は、この像の事をどう思う?」

「え? どうと言われましても……性的な意味でという事でしょうか?」

 唐突で曖昧な質問に面食らったのか、星乃は目を丸くしておかしな事を口走る。

「……性的な意味について以外の意見で頼む。見たままの感想を聞かせてくれないか?」

「ええと……」

 戸惑った様子ながらも、星乃は足を踏み出すと、像の爪先から頭のてっぺんまで眺め回したり、ぐるぐると周囲を歩きながら首をひねったりしている。
 やがて一通り見回した後で俺に向き直ると

「とっても上手だと思います。男の子の顔は整っていて綺麗だし、それに、細部の作りこみがすごいです。ほら、ここのシャツの皺なんて、まるで本物みたい」

 指を差しながら興奮気味に説明する。けれど、俺はそれに対して失望にも似た気持ちを抱いてしまった。

「木を見て森を見ずの典型だな」

「どういう意味ですか?」

「ほら、よく見ろ。この少年像、足の大きさや太さなんかは年相応に見えるのに、上半身にいくにつれて徐々に不自然に大きくなってく」

 言いながら、俺は像の隣に立つと腰を少し屈める。

「こうして並ぶとわかるだろ? 肩幅や頭部なんて特に大きい。胴だって妙に長いし」

「うむむ、言われてみれば確かに……」