「菜野花畑星乃。最後の一言は余計なお世話ってもんだぜ? あたしにはあたしのやり方があるんだよ。うざいアドバイスはいらねえから」

 問題を解決して貰っておきながらなんという態度。さすがに幼い少女のような外見をもってしてもぎりぎりカバーできるかできないかの感じの悪さ。

 たとえこんなやつが美術部の仲間になったとして、はたしてうまくやっていけるのか?

「もう、赤坂先輩ってばツンデレなんだから。そういうところも可愛いですよ。それに私、赤坂先輩のお役に立てて光栄でございます! また何かありましたら、是非ともお手伝いさせていただきたい所存です!」

 うん。忠犬のこいつなら大丈夫だな。

「そんな殊勝な事言ってるけどさ、ほんとはあたしに恩を売って美術部に入りたいとか、そういう魂胆じゃないだろうな?」

「まさかそんなそんな。私はただ、先輩の困っているお姿を見て是非とも助けになりたいと思っただけで……あ、でも、下心も少しはあったかも。ほんのミリ単位で。えへえへ」

 星乃が照れたように笑ってみせるも、赤坂はつんと顔を背けた。その後で横目で星乃を見る。

「菜野花畑星乃。お前さ、なんでそんなに美術部に入りたいわけ? 先生は女子に人気あるからな。単に近づきたいとか、そんなくだらねえ理由だったらぶっ転がすぞ」

「そんなの愚問です! それはもちろん、蜂谷先生を尊敬してるからです! 私、先生の描いた『ある少女』っていう肖像画を小学生の頃に見て、すっごく感動して!」

 その途端、赤坂が目を瞠って星乃を凝視した。

「それって、まさか市立美術館に飾られてたヤツか⁉」

「そう! それです! もしかして先輩もあの絵を⁉」

「おう。あの絵はマジですごかったよな。鳥肌立ったさ。一瞬本物の人間かと思ったし」

 信じられない。まさかこんなところに星乃と似たような体験をした人物がいたとは。しかも絵に対する感想までほぼ同じ。そんなにすごい絵だったのか? 

 二人は俺を置いてきぼりにして盛り上がる。

「私もです! それで、将来絶対この人に逢おう。逢ってもっと絵を見せて貰おうって思ったんです!」

「あたしもあたしも! なんだよお前、ただのミーハーかと思ってたけど見る目あるじゃん」

 なんだか偉そうな言い方だが、どうやら褒めているみたいだ。俺から見ればどっちもミーハーだが。

 けれど、その事に微かな望みが見えた気がする。同じ境遇を経て、同じ志を抱いた赤坂なら、星乃の気持ちを理解してくれるのでは、と。

「それじゃあ、あの、私達が美術部に入部できる方法を教えて貰えませんか? 入部届の書き方のコツとか。先生に差し入れしたら喜ばれる食べ物とか」

 星乃が明らかに期待を込めて尋ねる。その途端、赤坂は言葉を詰まらせたように黙り込んだ。

 なんだこの反応……星乃が何かまずい事でも言ったか……? やっぱり差し入れがどうとかいう、賄賂を連想させるような発言が公序良俗に反するからか?