帰ってくるのが早すぎる。いくら何でもはりきりすぎだろ。大事な話をしている最中だったってのに。
 なんて事は流石に言葉に出せない。俺は頭を抱えるのみ。

 息せき切った星乃は胸に何かを抱えている。

「赤坂先輩、お待たせしました! これをどうぞ!」

 星乃は俺達のそばに来ると、抱えていたものをテーブルに置いた。見ればそれは一台の四角くて平たい何かの器具。

 星乃は胸を張ってそれを手で示す。

「てれってってー! 電子計量器ー! 化学室からこっそり拝借してきた逸品です!」

「計量器ぃ? んなもん使って何するつもりなんだよ」

 胡散臭そうな赤坂に対して、星乃は彼女の持ってきた白い林檎を指差す。

「ええと、石膏って型から外した後で、表面の汚れを落とすために水で洗浄しますよね? 型を取る時の離型剤《りけいざい》なんかも付着しているだろうし。だったら、重さでわかるんじゃないかなって。洗浄した際に石膏が水分を吸収するでしょ? それなら二日前に型を取った林檎のほうが重いはずです。吸収した水分がまだ抜けきっていないでしょうから」

「なるほど。星乃、君はこの二つの林檎を、水分の含まれる量で見分けようって言うんだな」

 確かにその方法なら、より正確な重量が分かるに越した事はない。そのための電子計量器なのか。

「さあさあ赤坂先輩、その林檎を思い切ってひとつずつ計量器に載せちゃってくださいよ。どーんと。そう、どーんと」

 赤坂は無言ながら、言われた通り石膏の林檎を慎重に計量機に乗せ、俺達はその数値を確かめる。

 俺は無意識のうちに、星乃の予想通りでありますようにと願っていた。

 一つ目の重さを確認した後、二つ目の林檎を載せる。重量が表示された計量機のディスプレイ。その数値は最初に載せた林檎より大きな値を示していた。

「へえ、本当だ。星乃の言う通り重さが違うな」

 確かに二つの林檎には明確な重量の違いがあった。俺は素直に感心してしまう。

 星乃は林檎の乗っている計量器ごと赤坂のほうへと押し出す。粘土まみれの手では白い林檎本体には触れられないんだろう。

「そういうわけで、こっちが二日前に型を取った林檎だと思います。今後も同じように型を取る際には、混ざっても一目でわかるように、目立たない部分にちょっとした印でも付けておいたほうがいいかもしれませんね」

 赤坂は林檎を計量器から取り上げたが、笑顔ひとつ浮かべずに星乃をまじまじと見つめたかと思うと眉をひそめる。