言ったと同時に嵐のように美術室から走り出て行った。
 
 粘土にまみれた手も洗わずに。その突然の出来事にしばらく呆気に取られてしまったが、気づけば美術室には俺と赤坂の二人きり。

 うん、気まずい。

 そういえば星乃によると、こいつはウルトラレアキャラだとか言ってたけど……。

「なあ赤坂……さん」

「あ? なんだよ蓮上才蔵」

「君はほとんど部活に来ないって星乃に聞いたが……そのふたつの石膏の林檎は一週間前と二日前の物なんだよな? いつどこで作ったんだ?」

 二日前といえば俺と星乃は放課後に美術室にいたはずだが、こいつが林檎を作っている姿を見た記憶がない。

「蓮上才蔵、お前は朝練ってものの存在を知らねえの? あたしはいつも朝に部活動してんだよ」

「なんでそんな運動部みたいな事……」

「そりゃ、菜野花畑星乃がうぜえからに決まってるだろ。あいつ、あたしが制作してるとやたらまとわりついて来るんだぜ。集中できないしマジうぜえ。筆ドンがどうとか意味わかんねえし」

 赤坂も聞かされたんだな。『夢スト』の話を。さぞや戸惑った事だろう。痛いほどわかるぞ。
 
 確かに先ほど林檎を制作中にも星乃は俺に色々と話しかけてきた。それを赤坂はうざいと感じているようだ。まあ、わかると言えばわかるが……それでも――

「うざいと思っているにもかかわらず、何か問題事が起きた時だけ放課後に来ては、都合よく星乃を利用するのか? 昨日も今日も。それとも『差別なんてくだらない』とか言いつつ、星乃の事を差別してるのか?」

「別に、そういうつもりじゃ……」

 口ごもるところを見ると、どうやら後ろめたいという意識はあるらしい。その罪悪感に漬け込むように俺は赤坂に向き直る。

「赤坂さん、もう一度頼む。もしこの件が無事に解決したら、どうにかして先生に掛け合って俺達を美術部に――」 

「菜野花畑星乃、無事に帰還しましたー!」

 言いかけた俺の言葉は、勢いよくがらりと開くドアの音と、陽気な星乃の声に遮られる。