「見ての通り、ここに林檎が二つある。白いのは石膏でできてるからだ。林檎を粘土で摸刻して石膏で型を取ったんだ。一つは一週間前。もう一つは二日前にな」

 奇しくも赤坂も林檎を摸刻していたとは。なんという偶然。

「ところが、今朝うっかり手が滑って二つとも落としちまったんだよ。幸いにも欠けたり割れるような事は無かったんだけど、どっちがどっちだか分かんなくなっちまってさ。それで参ってるってわけ。どうだ、間抜けだろ? 笑っていいぞ」

 自嘲するかのように大袈裟に肩をすくめる。

 話を聞いた星乃は左目の下に指をあてて黙り込む。何かに集中するように。

 それを横目で見ながら俺は軽く手を挙げる。

「ええと、だったら普通に見た目でわかるんじゃ……?」

 さすがに爪楊枝の刺さったいびつなボールと、普通の林檎ほどの違いはないだろうが、個々の形にでも相違点はあるはずだろう。

 そう思った上で言ったのだが、赤坂は首を振る。

「それが、元になった林檎は一つ。つまり、同じ型から二つの石膏の林檎を作ったってわけ。だから見た目も目視じゃわからねえくらいに同じなんだよ」

「事情はわかった。でも、それならいつ型を取ったかなんて事を気にしなくとも特に支障はないんじゃないのか? 見た目だってほとんど同じなんだろ?」

 俺は思った通りの疑問を口にした。しかし赤坂は小さく舌打ちする。

 ……今日も感じ悪いな。

 こんな幼い見た目の女子が不遜な態度をとるというギャップが、余計そう思わせるのかもしれない。

「先に型を取ったほうに細工してえんだよ。乾燥具合が違うと色々と差が出るしな」

 なるほど。それで悩んでいると……。

 石膏でできたほぼ同じ形の二つの林檎。違いは型を取った日時だけ。それを区別するには――さて、どうしたものか。

 するとそこで星乃は指を離して赤坂に顔を向ける。

「赤坂先輩、ちょっと待っててください。超ダッシュですぐに戻ってくるので! 絶対待っててくださいよ! 約束ですよ!」