目を向けると、ドアは少し開いた後、隙間から赤いラインの入った白い上履きが入り込んできた。そのまま靴はがらがらとドアを開けてゆく。

 ラファエロ⁉ 来てくれたのか⁉

 俺の錯乱の末の錯覚とは裏腹に、靴の主は赤くてふわふわな髪の毛を持つ小学生のような幼い外見の少女。赤坂くれはだ。両手に何かを持っているために足でドアを開けたようだ。

 しかしラファエロじゃないにせよ助かった。こいつの登場により星乃の注意も逸れただろうからな。

「あ、赤坂先輩、ちょうどいいところに。先輩も『夢スト』について一緒に語り合い――」

「絶対にノー」

 即座に星乃の誘いを一蹴すると、少々顎を上向けて俺達を見回す。

「お前ら、またフリー美術部員とかいって美術部占拠してんのか。あんま調子に乗ってんじゃねえぞ」

「でも、先生の許可は貰ってますよ。もう顔パス状態です」

「それじゃあ、そのフリー部員に尋ねたいんだけどさあ。ちょっと正規美術部員様に協力してくれよ。つーか協力しろ」

「なんですかなんですか? また何かお困り事でも? ほしのんのお悩み相談室は二十四時間いつでも開放中ですよ。さあ、はりきってレッツお悩み告☆白!」

 星乃がいち早く反応して赤坂にまとわりつき始めた。

 出た。星乃の忠犬ぶり。昨日感じの悪い言い方をされたばかりにもかかわらずこの反応。こんな調子じゃいつか詐欺にでも遭うんじゃないかと、他人事ながら心配になってくる。

 いや、その前に――

「ちょっと待て。それより昨日の件はどうなったんだ? あのスイカの絵は」

 俺は思わず口を挟む。結局どういう結末を迎えたのか気になる。

「ああ、あれか。あの後、甥の友人一家に正直に話して謝ったら、相手もわかってくれたみたいでさ。スイカの絵もそのままで構わないって言ってくれたってよ」

「わあ、ほんとですか⁉ それはなによりでしたねえ」

「ああ。菜野花畑星野、お前もご苦労だったな」

 安堵する星乃の姿を見て、赤坂はその話は終わったとでもいう態度だ。彼女の甥が友人一家と和解できた事は喜ばしいが、助力してくれた星乃に対してもっと気遣いの言葉とかはないのか? 

 「ご苦労」だけで済ませるのか? ヤン天くれはの傍若無人ぶりにはついて行けない。星乃本人は気にしていないようだが……。

「で、今日の用事なんだけど」

 赤坂は一旦言葉を止めて、両手にそれぞれ持ったものを俺達に見せる。

 それは白い林檎だった。