信じがたい事だが、どうやらカッターナイフと定規を使って1枚の紙を裏と表の真っ二つに分けたらしい。すごいテクニックだ。

「これで蓮上先輩も、この山下さんという人も絵を無駄にしなくて済みます。でも、他人の絵の裏に自分の絵を描くなんてやっぱりずるいですよね。罰として山下さんの絵は裏返して画版に戻しておきましょう」

 その言葉通り、山下の絵を裏返して、何も描いていない面を表面にして画版に留めた。これでこの絵は一見白紙に見える。山下は次の美術の授業で自分の絵が無いように感じて焦る事だろう。なかなか良いアイディアだ。俺の怒りも少し収まった。

「ありがとう星乃。本当に助かった」

「いえいえ、私こそマルス像の下敷きになっていたところを助けて頂いたわけですし、お互い様ですよ」
 
 星乃は照れたように頭を掻きながら、俺の絵を手渡してくる。
 それにしても、この菜野花畑星乃という少女はすごいな。まさか俺の絵が別の絵の裏に隠れているなんて予想もしなかった。
 もしかすると「あの問題」について助けになってくれるのでは……?

「なあ星乃、相談ついでにもう一つ頼みがあるんだが……」