肖像画を? 星乃によると、ここ数年は作品を発表していないというあの先生が?
好奇心が頭をもたげ、俺は雪夜の話に集中するように耳を傾ける。
「その小鳥遊先輩も、ほしのんみたいに蜂谷先生の大ファンだったらしくてね。肖像画を描いて貰った時はすごく喜んで、演劇部でもよくその話をしてたよ。聞いたところによると、長い間自宅の自室に篭っては絵を眺めてたんだって。病気が進行して、入院するまでは、それこそ暇があればってくらいに。それでね、ここからが不思議なんだけど……」
雪夜はちょっと言葉を切って、俺達の顔を見回す。
「その小鳥遊先輩が亡くなってから少しして、色々落ち着いた後に、家の人が例の肖像画が見当たらない事に気づいたんだ。先輩が毎日のように眺めて大切にして、部屋から出した事もないはずなのに。おかしいと思って、部屋中徹底的に探したんだって。そしたら……」
「見つかったのか?」
俺の問いに雪夜は頷く。
「うん。先輩の部屋のクローゼットの奥から、まるで何かから隠すように布に包まれてね。でも、そこまでなら、小鳥遊先輩が肖像画を大切にするあまり、自分の死後も誰かの手に渡らないように隠したのかも……だとか色々考えられたんだけど……ところが、実際に見つかったその肖像画は、明らかに普通じゃなかったらしいんだよ」
「普通じゃないっていうのは?」
「それがね、肖像画の顔の部分だけ、真っ黒に塗り潰されていたとか」
「え……」
顔が塗りつぶされていた……? それってまさか……。
俺の脳裏に、昨日美術準備室で見たあの絵が蘇る。顔にぽっかりと穴の開いたような、どこか恐ろしげな絵が。
「でもね、これも変な話なんだけど……実は、その先輩の家族を含めて、それまで誰一人その肖像画をちゃんと見た事がなかったんだって。持ち主の先輩が絶対に見せてくれなかったとか。だから、最初から顔の部分が黒く塗り潰されていたのか、先輩が自分でやったのか判断できなくて……で、まずはその絵を描いた蜂谷先生に心当たりはないか尋ねたらしいんだ」
「それで、どうなったんですか?」
星乃もいつのまにか身を乗り出して雪夜の話に聞き入っていた。
「先生は『自分の見えたままを描いただけ』だって言って、黒く塗り潰した事は否定したらしいよ。考えてみたらそうだよね。画家がそんな絵を描くわけがないし、たとえ描いたとしてもモデルになった先輩だって受け取らないよね。だって、顔が塗りつぶされた絵なんて、こう言ったらなんだけど気味悪いし……」
「と、なると、モデルになった先輩が自ら塗り潰したか、それとも第三者の仕業か……というか、何のためにそんな事を……?」
「それもまったくわからない状態だったんだけど、結局は亡くなった先輩の遺族が、蜂谷先生にその絵を返した事で一応の決着がついたとか。いくら形見と言ったって、顔が塗りつぶされた絵は不吉に思えて仕方がない。かといって処分するのもどうかって判断で。それで、その絵は今も学校のどこかにあって、見た者には不幸をもたらす『呪いの肖像画』として、この学校の七不思議のひとつになってるらしいよ」
「それもまた……せっかく描いた絵をつき返された上に、妙な噂まで付け加えられて、先生も気の毒だな」
「でも、僕は遺族の気持ちもわかるような気がするなあ。やっぱりそんな絵が近くにあったらちょっと怖いもん」
好奇心が頭をもたげ、俺は雪夜の話に集中するように耳を傾ける。
「その小鳥遊先輩も、ほしのんみたいに蜂谷先生の大ファンだったらしくてね。肖像画を描いて貰った時はすごく喜んで、演劇部でもよくその話をしてたよ。聞いたところによると、長い間自宅の自室に篭っては絵を眺めてたんだって。病気が進行して、入院するまでは、それこそ暇があればってくらいに。それでね、ここからが不思議なんだけど……」
雪夜はちょっと言葉を切って、俺達の顔を見回す。
「その小鳥遊先輩が亡くなってから少しして、色々落ち着いた後に、家の人が例の肖像画が見当たらない事に気づいたんだ。先輩が毎日のように眺めて大切にして、部屋から出した事もないはずなのに。おかしいと思って、部屋中徹底的に探したんだって。そしたら……」
「見つかったのか?」
俺の問いに雪夜は頷く。
「うん。先輩の部屋のクローゼットの奥から、まるで何かから隠すように布に包まれてね。でも、そこまでなら、小鳥遊先輩が肖像画を大切にするあまり、自分の死後も誰かの手に渡らないように隠したのかも……だとか色々考えられたんだけど……ところが、実際に見つかったその肖像画は、明らかに普通じゃなかったらしいんだよ」
「普通じゃないっていうのは?」
「それがね、肖像画の顔の部分だけ、真っ黒に塗り潰されていたとか」
「え……」
顔が塗りつぶされていた……? それってまさか……。
俺の脳裏に、昨日美術準備室で見たあの絵が蘇る。顔にぽっかりと穴の開いたような、どこか恐ろしげな絵が。
「でもね、これも変な話なんだけど……実は、その先輩の家族を含めて、それまで誰一人その肖像画をちゃんと見た事がなかったんだって。持ち主の先輩が絶対に見せてくれなかったとか。だから、最初から顔の部分が黒く塗り潰されていたのか、先輩が自分でやったのか判断できなくて……で、まずはその絵を描いた蜂谷先生に心当たりはないか尋ねたらしいんだ」
「それで、どうなったんですか?」
星乃もいつのまにか身を乗り出して雪夜の話に聞き入っていた。
「先生は『自分の見えたままを描いただけ』だって言って、黒く塗り潰した事は否定したらしいよ。考えてみたらそうだよね。画家がそんな絵を描くわけがないし、たとえ描いたとしてもモデルになった先輩だって受け取らないよね。だって、顔が塗りつぶされた絵なんて、こう言ったらなんだけど気味悪いし……」
「と、なると、モデルになった先輩が自ら塗り潰したか、それとも第三者の仕業か……というか、何のためにそんな事を……?」
「それもまったくわからない状態だったんだけど、結局は亡くなった先輩の遺族が、蜂谷先生にその絵を返した事で一応の決着がついたとか。いくら形見と言ったって、顔が塗りつぶされた絵は不吉に思えて仕方がない。かといって処分するのもどうかって判断で。それで、その絵は今も学校のどこかにあって、見た者には不幸をもたらす『呪いの肖像画』として、この学校の七不思議のひとつになってるらしいよ」
「それもまた……せっかく描いた絵をつき返された上に、妙な噂まで付け加えられて、先生も気の毒だな」
「でも、僕は遺族の気持ちもわかるような気がするなあ。やっぱりそんな絵が近くにあったらちょっと怖いもん」