「ほら、約束通りコロッケ持って来たぞ。醤油かけたやつな」

 早速弁当を広げると、蓋に星乃所望のコロッケを乗せて差し出す。ちなみに母親に頼み込んで作ってもらった。

「わー、蓮上先輩優しいなりー。コロッケうれしいなりよー」

 言いながら星乃が代わりにと差し出して来たのは、食べやすい一口大の……ハンバーグにしか見えない何か。

「これは……?」

「やだなあ蓮上先輩。これはピッガイヤットサイに決まってるじゃないですか」

「……俺にはハンバーグにしか見えないんだが」

「我が家ではそれをピッガイヤットサイと呼びます」

 嘘つけ。

 と言いたいところだが、俺も正式なピッガイヤットサイがどんなものか知らないのだ。まさかこれが本当に本物のピッガイヤットサイ……?

 しばらくその物体を見つめていると、横でやり取りを見ていた雪夜が噴き出した。今までおかしさを堪えていたかのように。

「才蔵、それは紛れもなくハンバーグ。ピッガイヤットサイっていうのは鳥の手羽先を使った料理だよ。ほしのん、君もなかなかやるね。才蔵に対してそんな事するなんて」

「ぎゃー! な、なんでバラすんですか⁉ うまく誤魔化せそうだったのに! 裏切者! 裏切者には死を! そもそもピッガイヤット? サイ? なんてわけのわからないもの、私の調理スキルで作れるわけないじゃないですか! 察してくださいよ!」

 俺の嫌がらせリクエストにそう来たか。なかなか小賢しいな。

 腹いせにコロッケを取り返そうと思ったが、それを察知したのか、星乃は素早くコロッケにフォークを突き刺して頬張りはじめた。

「やっぱりコロッケはおいしいなりねー。もぐもぐ」

 結局俺はピッガイヤットサイならぬハンバーグを食べる羽目になった。でも、それはそれでうまかった。なんとなく悔しい。

「それで、なんで才蔵が美術部に入るはめになったの? 是非詳しく聞きたいなあ」

 タコの形のウインナーを齧りながら、雪夜は俺の苦手なあの顔で、にやりと唇を釣り上げた。