「ていうか才蔵、部活って事は美術部に入ったの? 聞いてないよ」

「言ってないからな」

「えー、秘密にしてるなんて友達甲斐がないなあ」

 しかも正確に言うと美術部じゃない。フリー美術部だ。しかしそれを説明するとややこしいから黙っていたのだ。

 それにしても、知らない奴がいきなりついて来たりして、星乃は困惑しないだろうか?

 おそるおそる美術室のドアを開けると、すでにテーブルの前にはミルクティー色の髪の少女が。弁当箱を広げ準備万端といった様子で鎮座していた。

 彼女は俺を見てぱっと顔を輝かせたが、その後に続く雪夜の姿に、不思議そうな表情を浮かべた。

 と、次の瞬間目を見開いて立ち上がる。

「はわわ! そちらの方はどなたでございますか!? はっ、もしや蓮上先輩の彼女さんかなにかで!? いや、でも男子用の制服を着ているということは、まさか、彼氏さん!? 禁断の恋! きゃー! ロマンティック!」

 なんでそんな発想ができるんだ。
 俺はつとめて冷静に説明する。

「星乃、こいつは俺のクラスメイトの望月雪夜っていうんだが、どうしても一緒に昼飯を食べたいっていうから……あ、嫌だったら断ってもいいぞ」

「なんと! そういう事だったんですか! 全然嫌なんかじゃないです! ご飯は大勢で食べたほうがおいしいですもんね! もちろん大歓迎です! さあさあ、こちらへどうぞ! たいしたものはご用意できませんが。あ、よろしければお飲み物でもいかがです? 全力で買ってきますよ! 五分以内に!」

 そうか。こいつはぼっち嫌いな忠犬属性だもんな。昼飯を共にする相手が増えて、むしろ喜んでいるみたいだ。立ち上がると雪夜に向かいぺこりとお辞儀する。

「私は菜野花畑星乃と言います。『星乃』とか、『ほしのん』とか呼んでくださって構いませんよ。むしろ是非とも親しみを込めて呼んでください! 身長一六一センチ、体重はりんご三個分。好きな食べ物は小倉抹茶アイス。好きな色はインターナショナルクラインブルー。好きな石膏像はヘルメスです!」

「あ、それじゃあ僕は『ゆきやん』かな。よろしくね、ほしのん。飲み物は持ってきてるから大丈夫だよ。それよりさ、ほしのんって前に中庭の銅像の件で演説してたよね。覚えてるよ」

「ひゃー! あの拙い演説は今思い出しても赤面ものです! 忘れてください! 今すぐに! なうなう!」

「いやあ、僕は心を動かされたけどなあ」

 なんで雪夜はこんなにもすぐに星乃と打ち解けられるんだ。しかも笑顔まで浮かべて。

 男ながらに俺の恋人だとか言われて禁断の恋扱いされたにも関わらず。

 その順応力が恐ろしい。それとも演劇部だけに、そつなく演技してるのか?

 ともあれ、お互い挨拶が済んだところで三人でテーブルにつく。