と、そこで俺は先ほど美術準備室で見た、どこか不気味な絵の事を思い出した。
「なあ星乃。さっき美術準備室で見た絵は先生が描いたものじゃないのか? それらしいサインも入っていたし」
「私もそれは思ったんですけど……顔が塗りつぶされてたって事は、失敗作だったんでしょうか? あんまり見られなかったですけど、ちょっと怖い雰囲気の絵でしたね。あーあ、塗り潰される前の状態の絵を見てみたかったなあ。それにあの粘土像も先生が作ってるのかなあ。はー気になる。私、気になります! 気になって気になって夜しか眠れません!」
先ほどの憤りはどこへやら、今は平気な顔でパンケーキを切り分けて口に運ぶ。ていうか、夜しか眠れないなら充分だろ。
「それよりも先輩! さっき言ってた事ほんとですか⁉ お昼ご飯を一緒に食べてくれるって!」
ああ、そういえばそんな事言ったっけ。さっきは星乃がちょっと気の毒に見えたからあんな事を口にしてしまったが、それは美術部への入部を諦めた場合であって……。
だが、星乃はすっかり真に受けてしまったようだ。期待を込めた目でこちらを見ている。まるで「待て」をされている最中の子犬のようだ。
こうなってしまったら引っ込みがつかない。仕方なく頷くと、星乃の顔がぱあっと輝いた。
「それじゃあ明日から、お昼休みは美術室に集合! あー楽しみ。私、誰かとお弁当のおかずを交換するのが夢だったんですよねえ。先輩はなんのおかずが好きですか? ちなみに私はコロッケです! いえ、コロッケなり! ソースじゃなくて醤油派なり!」
「変な語尾でコロッケ好きアピールしなくていい」
しかしそれは俺にコロッケを用意しとけという事か? 醤油付きで? 面倒な事言い出すな。
ちょっとした意趣返しのつもりで、俺は適当な料理の名を口にする。
「……ピッガイヤットサイだ」
「はい?」
「俺の好きなおかず」
「ピッガイヤットサイですね⁉ わかりました! 明日作ってくるので交換ですよ! 絶対!」
え、ちょ、ほんとに作る気なのか……? ピッガイヤットサイを? 俺だって本か何かで字面を見ただけで、どんな料理か知らないってのに。
「それじゃあ、お弁当は明日のお楽しみという事で、とりあえず今の私達は、こうしておいしいパンケーキを食べられる環境にいるんですよ。その事を神に感謝」
星乃はパンケーキを一口大に切り分けてフォークに突き刺すと、俺の口元に差し出す。
「先輩も、これを試さないなんて勿体ないです。人生損してますよ。一口わけてあげるから食べてみませんか? さあ、勇気を出して。はい、あーん」
なんだこのシチュエーション。まるで恋人同士……それ以前に一瞬間接キスでは……いやいや、俺が考えすぎなのか?
これは友人同士のコミュニケーション。あくまでパンケーキを一口譲ってもらうだけなのだ。そうだ。落ち着け俺よ。
「……一口だけなら」
口を開けると、星乃がフォークを押し込んできた。
俺が咀嚼するのを確認すると、今度はグレープフルーツジュースを飲まされる。
そしてまたパンケーキ。
「どうですか?」
「……意外とうまかった」
昨日食べた後はもう充分だと思えるほどだったのに。パンケーキ侮れない。
「でしょ? でしょ? 私、誰かと食べ物をシェアするのが夢だったんですよ。そういうのって、仲良しって感じだと思いませんか?」
そう言われると断れるはずもない。俺は新たにパンケーキバニラアイス添えとグレープフルーツジュースを注文したのだった。
別に思った以上にうまかったからじゃない。シェアだ。あくまでもシェアのためだ。
「なあ星乃。さっき美術準備室で見た絵は先生が描いたものじゃないのか? それらしいサインも入っていたし」
「私もそれは思ったんですけど……顔が塗りつぶされてたって事は、失敗作だったんでしょうか? あんまり見られなかったですけど、ちょっと怖い雰囲気の絵でしたね。あーあ、塗り潰される前の状態の絵を見てみたかったなあ。それにあの粘土像も先生が作ってるのかなあ。はー気になる。私、気になります! 気になって気になって夜しか眠れません!」
先ほどの憤りはどこへやら、今は平気な顔でパンケーキを切り分けて口に運ぶ。ていうか、夜しか眠れないなら充分だろ。
「それよりも先輩! さっき言ってた事ほんとですか⁉ お昼ご飯を一緒に食べてくれるって!」
ああ、そういえばそんな事言ったっけ。さっきは星乃がちょっと気の毒に見えたからあんな事を口にしてしまったが、それは美術部への入部を諦めた場合であって……。
だが、星乃はすっかり真に受けてしまったようだ。期待を込めた目でこちらを見ている。まるで「待て」をされている最中の子犬のようだ。
こうなってしまったら引っ込みがつかない。仕方なく頷くと、星乃の顔がぱあっと輝いた。
「それじゃあ明日から、お昼休みは美術室に集合! あー楽しみ。私、誰かとお弁当のおかずを交換するのが夢だったんですよねえ。先輩はなんのおかずが好きですか? ちなみに私はコロッケです! いえ、コロッケなり! ソースじゃなくて醤油派なり!」
「変な語尾でコロッケ好きアピールしなくていい」
しかしそれは俺にコロッケを用意しとけという事か? 醤油付きで? 面倒な事言い出すな。
ちょっとした意趣返しのつもりで、俺は適当な料理の名を口にする。
「……ピッガイヤットサイだ」
「はい?」
「俺の好きなおかず」
「ピッガイヤットサイですね⁉ わかりました! 明日作ってくるので交換ですよ! 絶対!」
え、ちょ、ほんとに作る気なのか……? ピッガイヤットサイを? 俺だって本か何かで字面を見ただけで、どんな料理か知らないってのに。
「それじゃあ、お弁当は明日のお楽しみという事で、とりあえず今の私達は、こうしておいしいパンケーキを食べられる環境にいるんですよ。その事を神に感謝」
星乃はパンケーキを一口大に切り分けてフォークに突き刺すと、俺の口元に差し出す。
「先輩も、これを試さないなんて勿体ないです。人生損してますよ。一口わけてあげるから食べてみませんか? さあ、勇気を出して。はい、あーん」
なんだこのシチュエーション。まるで恋人同士……それ以前に一瞬間接キスでは……いやいや、俺が考えすぎなのか?
これは友人同士のコミュニケーション。あくまでパンケーキを一口譲ってもらうだけなのだ。そうだ。落ち着け俺よ。
「……一口だけなら」
口を開けると、星乃がフォークを押し込んできた。
俺が咀嚼するのを確認すると、今度はグレープフルーツジュースを飲まされる。
そしてまたパンケーキ。
「どうですか?」
「……意外とうまかった」
昨日食べた後はもう充分だと思えるほどだったのに。パンケーキ侮れない。
「でしょ? でしょ? 私、誰かと食べ物をシェアするのが夢だったんですよ。そういうのって、仲良しって感じだと思いませんか?」
そう言われると断れるはずもない。俺は新たにパンケーキバニラアイス添えとグレープフルーツジュースを注文したのだった。
別に思った以上にうまかったからじゃない。シェアだ。あくまでもシェアのためだ。