「なんなんだあの赤坂ってやつは! こんな事ならあいつの悩みについて真剣に考えるんじゃなかった! ……悪かったな星乃。入部させてくれとか勝手に談判してしまって……」
下校途中の通学路を歩きながら、不満と謝罪の言葉をまくしたてる。
あいつのあの見た目は卑怯だろ。中身と全然違う。気を付けないと、ついなんというか……子ども……そう、子どもだ。
何も知らない無垢な子どもに対するみたいに心を許しそうになる。だから俺は余計な事を口走ったりして……。
「ていうか君は本当に美術部に入部するつもりなのか? 多分に人間性に問題がある上に、髪色のセンスが壊滅的に狂ってるあの女のいる部活に!」
しかし、もしもあんな外見で、首を傾げられて可愛らしく「だ~め」とか断られたら、それはそれですごすごと引っ込むしかない。
いや、でも俺はロリコンじゃないぞ。決して!
「いえ、気にしないでください。それに、私はまだまだ諦めませんから。まったく部員がいなくて活動停止状態だっていうのなら仕方ないですけど、現に部員がいるとなれば話は別です。ふとした拍子に入部を認めてもらえるかもしれませんから。こうなったら私、これからも毎日毎日美術準備室に通って、蜂谷先生に直訴しますよ! それに、いよいよ廃部の危機となれば、先生だって嫌でも入部を認めざるを得なくなるかもしれないし」
廃部寸前を待つとはなかなかせこい考えだな。そのまま廃部になる可能性は考慮してないのか?
「知ってました? 私は障害があればあるほど燃えるタイプなんです。まるでロミオとジュリエットのように。なんてロマンチック。あ、ちなみに私がジュリエット側ですよ。念のため」
それくらいわかる。
「そうとなれば体力付けないと! 蓮上先輩、何か食べて帰りましょう! 小麦粉系のお菓子がいいです。例えば小麦粉に牛乳やら卵やらを混ぜて焼いたものとか!」
「パンケーキが食べたいなら、最初から素直にそう言え」
それにしても、なんで女はすぐにロミオとジュリエットを持ち出すんだ? 障害を乗り越えて結ばれてもバッドエンド確定だってのに。
さらに言えばロミオとジュリエットは両思いだけど、星乃は明らかに片思いだ。例えに出すにはいささか違和感があると言わざるを得ない。
しかしながら星乃のロマンチック夢想を霧散させるのも気の毒なので、心優しい俺は沈黙を選択した。