話を聞き終わった星乃は勢いよく手を挙げる。

「はいっ! はいっ! 質問でーす。それで、赤坂先輩はわかったんですか? 相手の親御さんが怒った理由」

「それがわかんねえからお前らに聞いてんの。菜野花畑星乃、前に言ってたよな。お前、中学の時は美術部員だったって。その知識を活かしてささっと解決してくれよ」

 随分無茶な事を簡単に言うんだな、こいつは。

 でも、星乃が中庭のあの銅像についての真相を解明したのは確かだ。もしかすると、美術に対する相当な知識を有しているのかもしれない。

 スマホを手に取ると、星乃と一緒にその画面を改めて見つめる。スイカを手に縁側に座る二人の少年。その頭上には花火。「夏」と聞けば誰もが思い浮かべるような風景を描いた絵。

 少しノスタルジックな印象も受けるが、特におかしなところなんて無いように思える。

 星乃もそう感じたのか、躊躇いがちに口を開く。

「ええと、この絵の男の子が、あまりにも実物に似ていなかったとか……?」

「まさか。子供の描いた絵だぜ? 普通なら微笑ましいと思うような事はあっても、そんな事で目くじら立てたりしねえだろ?」

「……確かにそうかもしれませんね。むむむ……」

 あきらかに困っている様子だ。
 俺も何か手掛かりはないかとスマホの画面を穴の開くほど見つめるが、わからないものはわからない。その場には心なしか気まずい沈黙が落ちる。

 俺達の焦りに気付いたのか、赤坂は自身の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

「あー……なんだ、その、そんな真剣に考えなくてもいいっつーか。こっちだって全然見当もつかなかったんだし。わからなくてもキレたりしねえよ」

 どうやら彼女なりに気遣ってくれているようだ。その様子を意外に思う。さっきまで「ヤンキー天使くれはちゃん」というあだ名も納得なほど感じが悪かったというのに。よくよく話してみれば案外普通なやつなのか?

「……すみません。お力になれそうになくて。私の高一レベル美術知識じゃどうにもこうにも……」

「いや、まあいいさ。けどなあ、あたしらでもわからないとなると、問題は別のところにあるって事かもしれねえな。文化の違いとか……? こうなったら蜂谷先生に相談するしかねえかなあ」

 その呟きに、星乃が人差し指で自身の左目の下のほくろのあたりに触れる。
 この仕種、前にもしていた。彼女が考え事をする時の癖なんだろうか? 
 そんな事を思いながらも俺はスマホの画面にちらりと目を向ける。

「文化の違いと言ってもな。こうして縁側でスイカを食べたり、花火を眺めたりする事に、どんな文化の違いがあるんだ? そもそも、この二人の少年のあいだに、そんなものが存在するのか?」

 俺がそう言った瞬間、星乃ははっとしたように目の下から指を離すと、がばっと立ち上がる。

「文化の違い! 文化の違い!」