その画面には、一枚の絵――正確には、一枚の絵を撮ったらしき写真が表示されていた。
画風からして子供が書いたであろう水彩画。
男の子が二人、縁側でスイカを食べている。一人は日焼けでもしているのか、肌が褐色だ。深く青い夜空には、鮮やかな花火が大輪の花を咲かせている。
「この絵、赤坂先輩が描いたんですか? ええと、その……童心に返ったような純粋な印象を受ける絵というか……まったりとして、それでいてしつこくない……」
「ちげーから。無理やり褒めようとしなくていいし。最後なんてグルメリポートみたいになってんじゃねえか。そうじゃなくてだな……」
赤坂は口籠って毛先を指で弄る。少し困ったように眉尻を下げて目を泳がせながら。
こいつは自分で気づいているんだろうか? そういう顔と仕草が合わさると、悩みを抱える幼い少女のようで、見ている側は思わず助けになりたいという気持ちを抱いてしまう。
ありていに言えば「ずるい」のだ。
そんな俺の内心には気づかないように赤坂は話し出す。
「この絵はあたしの甥っ子の小学生が図画工作の授業で描いたんだ。『楽しかった思い出』みたいなテーマで。見ての通り、友人と一緒にスイカを食いながら花火を眺めてるっていう、夏の夜の出来事を描いたごく普通の絵のはずなんだけどさ……」
言いながらテーブルの上でスマホをさっと滑らせると、俺達の目の前で止まった。
「描き上げた絵は他の児童が描いた絵と一緒に教室の後ろに貼り出された。まあ、小学校じゃよくある事だよな。で、後日、授業参観で学校に来た保護者達が絵を目にしたわけ。そしたらそのうちの一人がこの絵を見て怒り出したって言うんだ」
怒り出した? なんでだ? 俺には普通の絵に見えるが……。
赤坂は身を乗り出して、絵の中の日焼けしたほうの少年を指で示す。
「怒り出したのは、甥の絵に描かれたこの子どもの父親で、『我々を侮辱しているのか⁉』って、すげえ剣幕らしくて」
侮辱って……それは随分と穏やかじゃないな。たった一枚のこの絵だけで。
隣で星乃も唸る。
「むむむ。それは事件ですね。事件簿ですね」
「けど、甥自身も甥の家族も、この絵の何が悪いのか全然心当たりがなくて、もうお手上げ状態でさ。謝ろうにも理由がわからなけりゃ謝りようがないだろ? それで、美術に詳しい人間なら何か心当たりがあるかもしれないって事で、美術部員であるあたしにお鉢が回ってきたってわけ」
ヤン天くれはは、こんな髪色と態度でも、意外と親族との仲は良好なようだ。