「うぜえヤツがまた増えた。まあせいぜい入部できるように頑張れよ。風紀委員長の蓮上才蔵くん」

 なんだか含みのある言い方だな。だが言い返すのは我慢する。それよりも聞きたい事があったからだ。

「なあ赤坂」

「赤坂『さん』だろ。さんをつけろよこのデコ助」

 うわ、こいつもムカつく。自身の名誉のために言っておくが俺はデコ助じゃない……はずだ。はずだよな?

「はいっ! はいっ!」

 星乃が勢いよく手を挙げる。

「デコ助な蓮上先輩も素敵だと思います!」

 やめろ! フォローになってない!
 くそ、どいつもこいつも。俺はデコ助じゃないから! ないから! ……たぶん。

 とは思いながらも反射的に前髪を手櫛で整えてしまう。なんという屈辱。

「赤坂……さん……君はこの学校で唯一の美術部員だって聞いたんだが」

「ああ、そうだけど? それがなんだってんだ?」

「一体どうやって入部したんだ? 教えてくれないか?」

「蓮上才蔵。お前もそれを聞くのかよ。菜野花畑星乃にもうんざりするほど同じ質問されたぜ。でも答えは簡単。あたしの入部届が完璧だったからだ。それ以外ないだろ」

 確かに、俺達はあの入部届にダメ出しされた。それを考えれば、赤坂の言う事にも信ぴょう性はある。一方で馬鹿馬鹿しい判断基準だとも思いながら。

「ま、そんな事はどうでもいいさ。菜野花畑星乃、今日はお前に用があったんだけど……でも、人数は多いほうがいいな。おい蓮上才蔵。お前も手伝えよ。どうせヒマなんだろ? フリーター美術部員ども」

 こいつ、実際に話すのは初めてだけど、噂通り口の悪いやつだな。訂正するのも面倒だが、フリーターじゃなくてフリーだ。さすがヤン天くれは。星乃とは違うタイプで個性的だ。

 しかし星乃はどことなく嬉しそうに

「なんですかなんですか? 私に用事って? はっ、まさか! 友愛の告白とか⁉ それなら私達、早速お友達から――」
 
 まるで子犬のように赤坂にまとわりつく。

 あー、こいつ友達いないのがコンプレックスだからな。中庭の銅像の件の時も「頼られて嬉しい」とか言ってたし。初対面でリスを連想したのは俺の認識違いだったようだ。本来は天性の忠犬属性なのかもしれない。

「ちげーよ。うぜえな。とりあえずこれを見ろ」

 赤坂は星乃を軽くいなすと、スマホを取り出し、こちらに向ける。