というと、この目の前の人物が、滅多に姿を見せないっていう唯一の美術部員なのか?

「なんだお前ら。あたしの顔に何かついてんのか?」

 足を止めて影が喋った。その声は想像していたより随分と幼く、その割にぶっきらぼうだった。

 改めてよく見れば、声の主は少女だった。星乃よりも小柄な体躯。勝気そうな瞳は吊り上がり気味にこちらを見ている。それでもふっくらとした頬の稜線が更に幼さに拍車をかける。

 もしかして小学生……? いや、まさかな。

 一瞬そう勘違いしそうになるほど、目の前の少女は、高校というこの場には随分とミスマッチだ。確かに制服を着ているはずなのに。

 しかし、一番目立つのは彼女のその髪の毛。今まで窓から差し込む夕日のせいでそう見えるのかと錯覚していたが、癖毛のためかふわふわとあちらこちらに跳ねたようなショートヘアは、本当に夕焼けのような茜色をしていたのだ。

 だが、それを見て思い出した。確かこいつ、俺と同学年の『ヤンキー天使くれはちゃん』だ。

『ヤンキー天使くれはちゃん』こと赤坂(あかさか)くれは。一見小学生のような幼い容姿に、名を体現したようなふわふわとした赤いショートヘア。その非現実めいた様は、まるで童話の中からでも抜け出てきたようだ。しかし口を開けば――

「誰かと思ったら菜野花畑星乃じゃねえか。お前まだ入部諦めてねえの? 相変わらずうぜえな。ウザ花畑ウザ乃に改名すれば? ピッタリじゃね? 著作権はいらねえから安心して名乗っていいぞ」

 こんな乱暴な言葉が簡単に飛び出す。ゆえに陰で『ヤンキー天使くれはちゃん』、略して『ヤン天くれは』などと呼ばれているのだが……。

「あだ名をつけてくれるなんて……! それってまるで友達みたいです! 是非とも今日から『うざのん』と呼んでください!」

 星乃は全然堪えていない。むしろ喜んでいるようだ。こいつのぼっち拗らせっぷりも大概だな。

 しかし、まさか赤坂くれはが美術部員だったとは……こう言ってはなんだが不似合いというか……。