しかしその後でふと顔を上げると、自身の左目の下のあたりのほくろに人差し指をあてる。まるで何かを考え込むように。
 それから少しして指を離すと俺に顔を向ける。

「蓮上先輩、まだ探していない場所がありました」

 そう言うと、再び画版に手を掛けた。

「おい、何してるんだ? そこは今探したばっかりだろ?」

「裏ですよ、裏」

「裏?」

 どういう意味だ?
 俺の疑問を察したように星乃は説明する。

「ほら、今探してたのは画版に留められた紙の表側だけだったでしょ? だから今度は裏側を探すんです」

 やっぱりよくわからない。そんな事して何になるんだ?
 俺がぽかんとしている間にも、星乃は画版に留められた紙を裏返しては何かを確認していく。
 やがて

「あった! ありましたよ蓮上先輩!」

「え?」

 星乃が一枚の紙を画版から外すと胸のあたりに掲げる。
 するとそこにはまぎれもなく「蓮上才蔵」と名前の入ったマルス像のデッサンが。