星乃がカンバスに触れたところで、俺は振り向いてもう一度部屋の中を見回す。当たり前だが俺達以外誰もいない。それでも後ろめたいという気持ちはある。勝手に人のものをのぞき見するような真似をするなんて。

 けれど、好奇心がそれを大幅に上回ってしまった。スーパーレジェンドレア級だと聞いて興味を持つなというのが土台無理な話なのだ。

 カンバスの裏には美術教師のものと思われるサインと「小鳥遊涼平」というタイトルらしき文字。なんて読むんだろう? 「たかなし りょうへい」だろうか? 男の名前? どこかで聞いた事あるような……。

 そんな事を考えていると、そっとカンバスをひっくり返した星乃が

「ひゃっ⁉」

 と悲鳴のような声を上げ、その拍子にカンバスを取り落としそうになってしまう。

 俺が咄嗟に底面に手を添えると、なんとかカンバスは床に直撃せずに済んだ。お互い安堵のため息が漏れる。

「一体どうした――」

 言いながら絵に目を向けた俺も思わず固まってしまう。 

 そこに描かれていたのはタイトルの通り一人の男のようだった。

 ようだった、というのは、俺がそれを瞬時に男だと判断できなかったから。

 なぜならば、その絵の中の人物は確かにこの学校の制服を着ていたが、どういうわけか顔の部分だけが真っ黒に塗り潰されていたからだ。