しかし、よくよく思い返してみれば、確かに星乃は自分が美術部員だとは名乗っていなかったような気がする。
 
 「部員が一人しかいない」と聞いて、俺が勝手に星乃がその一人だと思い込んでしまったのだ。くっ、これは俺が悪いのか……?

「それじゃあ、その唯一の美術部員ってのはどこにいるんだ?」

「それが、滅多に姿を見せないウルトラレアキャラなんですよ。だから私もいつもこうして放課後に好き放題してるんですけどね。先輩もどんどん好きな事するといいですよ。あ、私、電気ケトルがあると、フリー部活動中にもお茶を飲めたりして便利かなあと思うんですよね。いいなー。欲しいなー」

「自分の欲しいものをあからさまに俺にアピールするのはやめろ。ていうかなんでさっさと入部届を提出しないんだ?」

「もちろん提出しようとしましたよ。でも、なぜか顧問の先生が受け取ってくれないんですよう! こうして自由に美術室を使ったりとか、フリー美術部員でいる事は容認してくださってるんですけど……」

「顧問が拒否してるって事か?」

 そんなの前代未聞じゃないのか? それとも、星乃のやつが顧問に対して何かやらかしたとか……? 

 ありえない事じゃない。知り合ってたいして間もない俺でもわかる。こいつは騒がしい上に強引でちょっとうざ――いや、個性的だからな。

 あれ、でも……。

「この間の銅像の件の時、顧問の美術教師は君の演説に真っ先に拍手してくれたじゃないか」

「そうなんですよね。私はてっきり先生にあまり良い印象を持たれてないと思ってたんですけど……ほら、私ってうざいし」

「自虐はやめろ。確かに君は誤解されやすいかもしれないが、別にうざいわけじゃない。ちょっと個性的なだけだ」

 こいつがうざいのは事実だが、自分からそんなネガティブイメージを認めるのは悪手だと思う。下手をすればどんどん深みにはまる。だから違うと言い聞かせる。

「そんな事言ってくれるのは蓮上先輩だけですよ。個性的なのは先輩のほうじゃないですか? でも、ありりんぬです」

 妙なお礼の言葉を述べながらも、星乃ははにかむように笑った。
 そういう顔をされると、美少女だけあってかわいいんだけどな。やっぱり性格がちょっとな。とは口に出さない。

「さて、入部届も準備できたところで、早速先生に提出です! 幸いにも今回の入部届も悪魔的完成度……! 今日こそ入部できるに違いありません! 風紀委員長という権力者も一緒だし、世間体を考えれば、先生だって無下にはできないはずです! 私と先輩のどちらかが入部できれば、部員は必要最低人数を確保できるし、美術部も存続できる。そして私も追い出されない! 完璧な計画です!」

「俺の学内地位を私的に利用しようとするな。ていうか、風紀委員長にそんな権力あるわけないだろ」