「それでは今日は早速入部届を提出しに行きましょう。さあさあ先輩、この紙に必要事項を記入してください。できるだけ芸術的で美しい字で。なにしろ顧問の先生は厳しいお方なんですからね!」

 放課後。美術室を訪れた俺に、星乃は未記入の入部届を差し出してきた。
 字の美しさが入部の可否に影響するのか?

 疑問に思いながらもテーブルについてシャーペン片手に必要事項を埋めてゆく。

 やがてすべての項目に記入し終わり、その事を告げようと顔を上げると、向かい側に座る星乃はにこにこしながらこちらを見ていた。
 何故か入部届を片手に。

「なんで星乃まで入部届を持ってるんだ?」

「あれ? 言いませんでしたっけ? 私は正式な美術部員じゃないんですよ。でも、今日こそは入部してみせようと思って」

「は?」

 ちょっと意味がわからない。

「え? だって、星乃は唯一の美術部員なんだろ……?」

「唯一の美術部員は他にいます。私は自主的に美術室で活動をしている、いわばフリー美術部員なんですよ。安住の地を求める流浪の美術部員なんですよ」

 なんだそれ。ややこしい。フリー美術部員なんてそれっぽい言い方をしているが、要するに勝手に美術部員を名乗る帰宅部じゃないか。

「って事は、俺を騙したのか? 美術部員だって」

「やだなあ。私は今まで自分が正式な美術部員だなんて名乗ってませんよ? 蓮上先輩が勝手に勘違いしただけです。でも、誤解を招く言動や振る舞いをしてたなら一応謝っておきますね。ごめんなさあい。てへぺろりんぬ」

 星乃はまるで反省していないように、舌をちらりと出しながら、自分の頭を拳でぽかりと叩く真似をした。
 うわあ、こいつムカつく。