「わかりました! それじゃあ蓮上先輩、美術部に入部してください! 先輩が入部してくれれば問題は一気に解決します! どうですか? 全然怪しくもなく実行可能なお手軽なお願いですよ。安心・安全・アイラブユーのトリプルAです」

「アイラブユーはAじゃなくてIだろ」

「……安心・安全のダブルAです」

 あ、こいつ誤魔化した。しかし心優しい俺はそれ以上追求しない事にしてやる。

「俺が入部か……でもなあ……」

 委員会の仕事もあるし……。

「できる事ならなんでもお礼するって言ったじゃないですか! それともあの言葉は偽りだったんですか? 無垢な乙女を騙したんですか? ひどい! 詐欺師! なんという悪魔的所業! 訴えて勝ちますよ!」

「い、いや、そういうわけじゃ……」

「じゃあ決定ですね。蓮上先輩はきっと才能ありますよ。だってあんなに素晴らしいおじいさんの血を引いてるんですから。これから一緒に頑張りましょうね。あ、改めて、私、一年D組、菜野花畑星乃です。身長一六一センチ、体重はりんご三個分。好きな食べ物は小倉抹茶アイス。好きな色はインターナショナルクラインブルー。好きな石膏像はヘルメスです! よろしくお願いします!」

 星乃は早口でくどい自己紹介をしながらこちらに片手を差し出す。握手のつもりらしい。
 まったく、強引だな。

 思えば最初からそうだった。俺はいつのまにか星乃のペースに巻き込まれ、振り回されていたのだ。

 けれど不思議と嫌な感じはしない。彼女が誰かの為に一生懸命になれる人間だとわかったからかもしれない。

 そんな人間をどうして嫌いになれるだろう。

 俺は苦笑しながら、なかば諦めの気持ちと共にその手を握る。なんでもすると約束したのは事実であるのだから。

「それじゃあ今日は先輩の入部前祝いとして、駅ビルの中にあるパンケーキ屋さんに行きましょう! 一度行ってみたかったんですよねえ。楽しみ。私、学校帰りに友達とかと寄り道するのが憧れだったんですよ」

 こいつ、俺をだしにして、自分が今までできなかった事をするつもりらしい。
 でも、そういうのも悪くない。だってそれって、友達みたいじゃないか。