暫くして、俺は再び美術室を訪れた。

 実はあの後、例の少年像が高い台座の上に置き直される事が決定したのだ。

 まだ公表されてはいないが、そうする予定であると学校側から我が家に連絡があった。像の制作者である蓮上才雲の関係者だからだろう。

 その事を星乃に伝えると、彼女はぱっと表情を明るくした。

「ほんとですか? よかったあ。私も穴を掘った甲斐があったってものです」

「中庭のあの穴を埋める前に、実際に校長達があそこから像を見て確かめたらしい。それだけじゃない、物好きな何人かの生徒達もこっそりと。だから余計説得力が増したんだろう。もしかして、君はそれも予想してたんじゃないか? だから穴をすぐに埋められないように土を離れた場所に捨てた。日曜日を選んだのも同じ理由だ。結果的に穴を掘って正解だったって事だな」

 俺の問いに、星乃は曖昧な笑みを浮べた。答えるつもりはないのだろうか。

「ともかく、何から何まで君のおかげだ。俺だけじゃない、家族もみんな感謝してる」

「そんな。あの像が本当に素晴らしいって事が証明されたからですよ。先輩のおじいさんの実力です」

 その言葉になんとなく恥ずかしくなった。家族の事を褒められるのは、嬉しい反面どうしてか照れるものだ。それを誤魔化すように咳払いすると、改めて切り出す。

「それで星乃……今回の件で何か礼がしたいんだが……」

「お礼ですか?」

「ああ、俺にできる事ならなんでも」

 感謝の言葉を述べるだけでは足りない。それくらい彼女には恩義を感じていた。
 星乃は即、片手を勢いよく挙げる。

「はいっ! はいっ! だったら美術部の存続を希望します! 先輩の風紀委員長権限でぜひ! やったあ、これで廃部にならずに済みます!」

 既に決定事項であるかのように星乃ははしゃぐが、それを聞いて俺の心は重くなった。

「残念だが、生徒会ならともかく、風紀委員長である俺が、部の存続をどうこうできるわけじゃない。美術部がこれまで通り活動するには、少なくとも今年度中に部員が二人以上必要。これは変えられない」

「そ、そんなあ……」

 星乃は肩を落とすが、次の瞬間、何かを思いついたように顔を上げる。