言いながら、整列する生徒達を見回す。

「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、中庭に少年の銅像がありますよね? あの少年像は、一見すると上半身に向かうほど比率が大きく、バランスが狂っているように感じられますが……実は、あの少年像は下から鑑賞する事を想定されて作られたものであり、なんと穴の中から座った状態で見上げると、絶妙なバランスを保っている事がわかったのです。そう、まるでミケランジェロのダビデ像のように。私は塹壕花壇を制作中に、偶然にもその事実に気付いてしまったのです!」

 一旦言葉を切って周囲の反応を窺う。謝罪かと思いきや、話が突然おかしな方向に逸れた事にみんなは戸惑いながらも、星乃の次の言葉を待っているようだ。

「それに気付いたとき、まるでいかずちに打たれたような衝撃を受けました。と、同時に思ったんです。この偉大な作品をこのまま埋もれさせてはならないと。私の自己満足である塹壕花壇なんてものよりも、唯一無二のあの少年像の価値を、後の世に伝える事のほうが重要だと。掘った穴は元通りに埋めるとお約束します。けれど、穴を埋めたら少年像を下から眺められなくなってしまいます。その事で少年像の正しい価値が失われるのはあまりにも惜しいと思いませんか? みなさんも、実際にその目で確かめてもらえれば、あの少年像の素晴らしさがおわかりいただけると思います。だから、穴を埋める代わりに、少年像を設置する場所を、もっと高いところ……例えば高い台座の上だとかに変更して欲しいんです。ずうずうしい事を言っているとは承知しています。でも私、みなさんにあの少年像の本当の素晴らしさを知ってほしいんです! あの像の作者のためにも! どうかお願いします……!」