そうか。だから、俺が「うざい」と口にしたとき、星乃はあんな顔をしたのか。
知らなかったとはいえ、彼女の心の傷をえぐるような事をしてしまったんだ。馬鹿だな。
そんな俺の内心には気付かないのか星乃は続ける。
「先輩が私を頼ってくれて、実は嬉しかったです。うざい私でも誰かに必要とされてるんだなって。学校で誰かと一緒にお弁当を食べるのも、すごく久しぶりで、それだけで楽しかったです。私、いつも美術室でひとりで食べてるから。だから今日はつい張り切って作りすぎちゃって……」
「ちょっと待て。あの弁当は星乃の母親が作ったんじゃ……」
星乃ははっとしたように俺を見る。と、みるみるその顔が赤くなってゆく。
「あ……あれはその……ええと、ほんとは私が作ったもので……仲のいい友達と一緒に食べる設定で……」
「……なんで母親が作ったなんて嘘ついたんだ」
「だ、だって、知り合って間もない人に手作りのお弁当なんて持ってきたら引かれるかと思って。だから、母がついでに作ってくれたって言えば怪しまれないかなって……自分なりに空気読んだつもりだったんです。あ、でも、知り合って間もない先輩にこんな事喋っちゃうからこそ、みんなから『うざい』とか言われちゃうのかな……? ごめんなさい。私、やっぱり距離感掴めなくて……」
星乃はどこか悲しそうに俯く。その姿を見て、なんだか胸が痛んだ。何か言わなければと咄嗟に口を開く。
「星乃が他人との距離感を掴めていないのかどうかは俺にはよくわからない。確かにおかしなテンションの奴だなとは思ったけど……」
うざいと思ったのも事実だが、それは伏せておく。
「うう、やっぱりですか……」
「でも、俺は別に不快じゃなかった……と、思う。独特のテンションだって、個性の範囲だ。思えば、穴を掘るのも結構楽しかったかもしれない。ぴちぴち女子高生の作った弁当もうまかったしな」
「え? ほ、ほんとですか? ほんとにほんと? 神に誓って?」
「ああ、誓って本当だ」
俺は神に背いた。だって、ここで本当の事を言えば、星乃は更に傷ついてしまうだろうから。
でも、そんな俺の罪悪感なんて些細なものだ。すぐに忘れるように銅像を見上げる。