「おじいさん?」

 驚きの声を上げる星乃に俺は頷く。彼女になら打ち明けてもいい気がした。この像の真実を明らかにした彼女になら。

「この像は祖父が晩年作ったものなんだ。粘土で像の原型が完成して、後はブロンズで型を取るだけっていう段階で、祖父は病に倒れてしまった。高齢だったのもあったし、みるみる弱っていって、あっという間に寝たきりに……」

 話しているうちに幼い頃の思い出が蘇る。俺は祖父が制作している姿が好きで、よくアトリエで彼が何かを作る様子を見物していたものだった。

 ある時は等身大の女性像だったり、またある時は可愛らしい猫だったり。その節くれだった手から自在にあらゆるものを作り出す祖父を、まるで魔法使いのようだと思った事もある。

 時には祖父の真似をして、その膝に座りながら粘土で色々なものを作った。寡黙な祖父とは特に言葉を交わすような事は無かったが、それでもあの頃の俺は祖父と共に過ごす時間に充足感を覚えていた。

「ここ何年かは、年齢のせいもあってか小型の作品しか制作していなかったけど、この少年像は祖父が久しぶりに手掛けた大型の作品だった。きっと思い入れも強かったはずだ。だから祖父が少しでも元気になってくれればと思って、この中庭に像が設置された後の写真を見せたんだ。ずっと入院していた祖父は、完成したこの像を実際に目にした事がなかったから。そうしたら、写真を見た祖父はひとこと『位置が違う』って。それだけしか言ってくれなかった。その後すぐに亡くなってしまって……」

「それで、その言葉の意味を探るために美術部に……?」

「ああ。祖父が最後に作ったこの像が、本人の意に沿わない方法で設置されているのなら、その無念を晴らしたいと思って。でも、その反面疑ってもいた。もしかして祖父は、写真を見て自分の作品の致命的な狂いに気付いて、それを誤魔化すためにそんな事を口走ったんじゃないか。衰えた自分の腕前を受け入れたくなくて『位置が違う』なんて言ったんじゃないかって……けど、そうじゃなかったんだな。少しでも疑った自分が恥ずかしいよ……」

 告白しながらも罪悪感がこみ上げる。