「もしかして、君が言ってた『アジアのミケランジェロ』って……」
「ええ。この像の作者の事です。ミケランジェロのダビデ像のような表現手法でこんなに綺麗な像を作れるなんて、きっと他の作品も素晴らしいに違いありません。『アジアのミケランジェロ』と呼ばれるにふさわしいかもしれない……なんて、大袈裟でしょうか」
「なんで、この穴を掘る前にそれを言わなかったんだ?」
それなら俺だって快く穴掘りに協力したかもしれない。あるいは、他の方法を模索するという手もあっただろう。
問うと、星乃は恥ずかしそうに口ごもる。
「それは……あの時点では私の推測が合っているか確証が無かったので……もしも自信満々で穴を掘った後で『実は間違ってましたー』なんて事になったらすっごく恥ずかしいじゃないですか。その場合はそのまま黙って塹壕花壇を作ってしまおうと思ってたんです。だから先輩には無理やり付き合わせるような形になっちゃって……ごめんなさい」
まさか星乃は、そのためだけにこんな事を……? 何時間もかけて、土まみれになって穴を掘り続けたのは、自身の作品を制作するためじゃなく、この像の真実を確かめるため……?
「どうして君はそこまで……」
「この像について話す先輩が、なんだか真剣だったから、力になれたらと思って。それに、私も見てみたかったんです。この像の本当の姿を。思った通り素晴らしいですね。まるで本物の男の子みたい。見られてよかった」
少年像を見つめるその目は輝いていた。今までの妙なテンションは鳴りを潜め、真剣な表情で。俺も釣られるように再び像に目を向ける。
「……この像の作者は、蓮上《はすがみ》才雲《さいうん》って名前なんだ」
星乃は瞬きしてこちらを見る。
「蓮上って、先輩と同じ苗字……」
「ああ。俺の祖父だ」