なんなんだ。強引だな。
わけもわからず引っ張られるままその場に座らされると、隣の星乃が地上を指差す。
「あれ! あれ見てください!」
その先には、例の少年像があった。夕陽を受けたそれは、全身から柔らかな光を放っているようにも見える。あれが一体なんだと――
その瞬間、俺ははっとした。
星乃も俺の表情が変わった事に気付いたらしい。若干うわずった声で続ける。
「先輩は、この像のバランスがおかしいって言ってましたけど、この場所からだと、像のバランスが整って見えると思いませんか?」
彼女の言うとおりだった。穴の底から見上げる少年像は、正面から眺めた時とは違い、上半身の不自然な大きさが目立たない。それどころか、実に自然な少年の姿を成していたのだ。
「なんで? どういう事だ?」
俺は像から目を離す事ができずに、像を見上げたまま星乃に疑問をぶつける。
「要するに、この像は、ダビデ像と同じなんです」
「ダビデ像? ミケランジェロのか?」
「そうです。ダビデ像って、下半身に比べると上半身の比率が大きいですけど、それって、下から見上げて鑑賞した際に、ちょうどいいバランスに見えるように計算して作られた結果だと言われていますよね。この少年の像もそれと同じなんです。下から鑑賞される事を想定して、作者はこの像を作ったんですよ!」
そこまで言われても納得できずに反論する。
「単なる偶然じゃないのか? たまたま下から見たら、うまい具合にちょうどいいバランスに見えただけっていう……」
「でも、この像の作者は、像の置かれる『位置が違う』って言ったんですよね? 一口に『位置』と言っても色々あると思いませんか? 前後、左右、そして――上下」
「……まさか」
「そのまさかですよ。本来この像はもっと高いところ――例えば高い台座の上か何かに置かれる事を想定して作られたんじゃないでしょうか。けれど、実際はこうして地面に設置されてしまった。だからそれを知った作者は『位置が違う』って言ったんです。もっと高い場所に置かれるはずだったという意味で」
興奮気味にまくし立てる星乃の言葉を聞いているうちに、俺はある疑いを抱いていた。
わけもわからず引っ張られるままその場に座らされると、隣の星乃が地上を指差す。
「あれ! あれ見てください!」
その先には、例の少年像があった。夕陽を受けたそれは、全身から柔らかな光を放っているようにも見える。あれが一体なんだと――
その瞬間、俺ははっとした。
星乃も俺の表情が変わった事に気付いたらしい。若干うわずった声で続ける。
「先輩は、この像のバランスがおかしいって言ってましたけど、この場所からだと、像のバランスが整って見えると思いませんか?」
彼女の言うとおりだった。穴の底から見上げる少年像は、正面から眺めた時とは違い、上半身の不自然な大きさが目立たない。それどころか、実に自然な少年の姿を成していたのだ。
「なんで? どういう事だ?」
俺は像から目を離す事ができずに、像を見上げたまま星乃に疑問をぶつける。
「要するに、この像は、ダビデ像と同じなんです」
「ダビデ像? ミケランジェロのか?」
「そうです。ダビデ像って、下半身に比べると上半身の比率が大きいですけど、それって、下から見上げて鑑賞した際に、ちょうどいいバランスに見えるように計算して作られた結果だと言われていますよね。この少年の像もそれと同じなんです。下から鑑賞される事を想定して、作者はこの像を作ったんですよ!」
そこまで言われても納得できずに反論する。
「単なる偶然じゃないのか? たまたま下から見たら、うまい具合にちょうどいいバランスに見えただけっていう……」
「でも、この像の作者は、像の置かれる『位置が違う』って言ったんですよね? 一口に『位置』と言っても色々あると思いませんか? 前後、左右、そして――上下」
「……まさか」
「そのまさかですよ。本来この像はもっと高いところ――例えば高い台座の上か何かに置かれる事を想定して作られたんじゃないでしょうか。けれど、実際はこうして地面に設置されてしまった。だからそれを知った作者は『位置が違う』って言ったんです。もっと高い場所に置かれるはずだったという意味で」
興奮気味にまくし立てる星乃の言葉を聞いているうちに、俺はある疑いを抱いていた。